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再び走り出した受験生たち。先程の地下道と違い、当然ながら舗装もされておらず、地面はぬかるんでいる。
霧は地下道の出口に出たときより濃く、隣に見える人間が霞むほど。足元も注意しておかないと何かに躓きそうで、白一色がルーシャたちを包み込んでいた。

「そう言えばさっきのピエロ誰だ?二人とも知ってるか?」

「……試験番号44番奇術師ヒソカ。トンパから聞いた話だが、去年気に入らない試験官を半殺しにして失格したそうだ」

「ふーん……」

「やっぱり気になるよなぁ。強えーし、気味悪いしな」

試験開始前といい、地下道から抜けた時といい、彼は相当人を殺すことを好むらしい。薄ら笑いを浮かべるヒソカの表情を想像してしまったのか、不快そうに眉を寄せルーシャは答える。

「それもあるけど、あまり近づきたくないってのが一番だな」

「……同感だ。」


クラピカのその言葉を最後に、三人は黙って走り続けた。



□□□□



殺気がまとわりつく。ねばつくような、狂気じみ血に飢えた殺気。そんな空気の震源は、やはりというべきか受験番号44番、ヒソカ。
恐らく前にいた二人もその気配を感じたのだろう、前に来た方がいいとゴンが大声で叫んでいた。

(この殺気――たぶんヒソカのだな――の中にいるのは居心地悪いけど、二人は今から急激にペース上げるなんて無理だろうし……。でもこいつら置いていくのもな……どうにかして抜け出せないもんかな)

考えた結果どうにもできない彼女はとりあえずこのまま後方集団に残ることにした。
できるだけヒソカに近づかないように注意しながら彼の位置を確認しつつ走る。
そうしてこのまま乗りきろうとしたのだが、現実はそこまで甘くはなかった。

「ちっ、知らねーうちにパニックにまきこまれちまったぜ」

「どうやら後方集団が途中から別の方向へ誘導されてしまったらしいな」

いつの間にか先頭集団からはぐれてしまったらしく、霧の中でそこかしこから受験生たちの悲鳴が上がった。すぐ近くまで魔獣が迫ってきているのだろう。
道がわかっているルーシャは先頭を見失った所でどうとでもなるのだが、先程から痛いほど強まる殺気が周囲に充満している。どうやら厄介なことになりそうだ。

(なんか起こる前にさっさとこっから離れたいんだけど……)

「ってぇーーー!!」

「レオリオ!」

「…………」

彼女の願いは5秒も経たぬ内に崩れ去った。
クラピカとルーシャは飛んできたトランプを弾き飛ばしたが、レオリオは武器が入ったカバンをゴンに預けていたため、為す術もなく腕にトランプが突き刺る。
痛みに声を上げた彼にクラピカ、そしてルーシャも立ち止まった。

「レオリオ、無事か?」

「腕に刺さっただけだ。いてぇけど命に別状はねェ。しかし……てめェっ!いきなり何しやがる!!」

「ククク◇試験官ごっこ◆」

そう楽しそうに、ヒソカは周りを見渡しながら唇を歪め笑った。
先程まで手探りで進むほどだった濃霧が少し晴れ、なんとか攻撃から逃れた他の受験者たちがヒソカを警戒するように周りを取り囲んでいるのが微かに見える。

「二次試験くらいまではおとなしくしてようかとも思ったけど、一次試験があまりにもタルいんでさ◇選考作業を手伝ってやろうと思ってね◆ボクが君達を判定してやるよ」

「…………判定?くくく、バカめ」

そう言ったのはヒソカの数メートル後ろにいる男。

「この霧だぜ。一度試験官とはぐれたら最後、どこに向かったかわからない本隊を見つけ出すなんて不可能だ!つまりお前もオレ達と取り残された不合格者なんだよ!!お――」

「失礼だな◆キミとボクをいっしょにするなよ◇」

男の声が不自然に途切れる。彼はすべての言葉を言い切る事なくヒソカ愛用の凶器で息絶えた。動かなかった受験生たちはそれを見て殺気立ち、各々武器を持ってじりじりと近づいていく。

「殺人狂め。貴様などハンターになる資格なんてねーぜ!」「二度と試験を受けられないようにしてやる…!!」

忌々しげな受験者たちの殺気など全く意に介さず、ヒソカはトランプを一枚取り出し、

「君達まとめてこれ1枚で十分かな◇」


そう、余裕とばかりに笑った。


「ほざけェエーーー!!」

「あ……」

受験生たちがヒソカに向け飛びかかる。しかし周りの受験生たちが一歩踏み出す前に、既にヒソカは動いていた。
流れるような動作でトランプを滑らせる。
見事な身のこなしをみせる度に、向かってくる受験者が切り刻まれ、次々と亡骸に変わりゆく。

切って、切って、切って。


「くっくっく…………あっはっはァーーァ!!!」


ヒソカは歓喜に打ち震える。


「うわぁああぁぁーーー!!」

先程まで殺気立っていた男たちはもはや完全に戦意を喪失していた。踊り狂うヒソカから逃れようとして、しかし逃げ切れずに呆気なく倒れ伏していく男たち。
ルーシャは黙ってそれを眺めていた。

(あーあ、助けるべきか?あれ……。いや間に合わないな。今のうちにさっさと逃げるとーーーー)

「君ら全員不合格だね◇」

しかしルーシャがそう考えている内に、早くも立っているのは血の臭いを纏ったピエロのみになっていた。先程勇敢にも彼に立ち向かっていった男たちは既に死体と化している。
ヒソカが次に標的とするのは当然、まだ生きているルーシャたち。新しい獲物に狙いを定めた彼はこちらに目を向け、一歩、また一歩とゆっくり近づいてきた。

「残るは君達四人だけ」

残ったのはクラピカにレオリオ、ルーシャに76番の男。

「おい」

男の小声に三人が一瞬だけ目を合わせた。

「オレが合図したらバラバラに逃げるんだ。奴は強い……!オレ達とは実践経験において天と地ほど差がある!」

その間にもヒソカの足は確実に四人のもとへ近づいてくる。男は早口で言葉を続けた。

「お前達も強い目的があってハンターを目指しているんだろう。悔しいだろうが今は……ここは退くんだ!!」

その言葉に小さく頷いた三人は、「今だ!!」と叫んだ男の合図で、散々に逃走した。

「なるほど、好判断だ◇ご褒美に10秒待ってやるよ◆」

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