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「後ろがら空き」

「え……っ!!」

背後に移動した気配から逃げるべくオレは方向転換してあいつから離れた。途端に至近距離にあったあいつの顔はすぐに遠ざかり、表情がはっきりと見えなくなる。

「あ、ほらまたすぐ逃げる。お前何回言わせるつもりだよ、逃げたら鍛錬の意味ないだろ?」

「だって……『勝目のない敵とは戦うな』って、」

「だからそれは敵と戦ってる時だろ?私は敵じゃなくて鍛錬の相手」

大体逃げてばかりっつーその根性も気に入らねェよな、一旦回避して作戦練るならともかく、なんてぶつぶつ呟くあいつは不満顔で頭をかく。
仕方ないだろ、オレはただ戦うために強くなるんじゃなくて“暗殺者”になるために強くなるんだ。暗殺者は獲物に見つかれば終わり、静かに標的を仕留めてそれ以外の戦いは避ける。
それが今まで兄貴に教わってきたこと。相手と真っ向から対峙すること自体、オレにとってはありえないことなんだ。

「兄貴だってそういってた。お前、ルーシャっていったっけ……鍛錬の仕方がはなっからおかしいんじゃないの」

「あ゛?」

やばい。
耳元で聞こえた低い声から逃げようと足を動かすが、頭が何かに押さえられて身動きが取れない。それがこいつの手だと気付いた時は背中がひやりと冷たくなったのを感じた。

「当たり前だ。私は“暗殺者”としてお前を鍛錬してるわけじゃない。ただ単に『鍛えてやってくれ』と言われたことをそのまま私なりにやってるだけだ」

「…そんなこと言われても、オレは…オレたちは暗殺一家だし……」

「はぁ?知るかよ」

ぴしゃり、とオレの言葉を打ち落としたそいつは掴んでいたオレの頭をわしゃわしゃと撫でた。力が強くて首ごと揺すられる。痛てェ!

「大体お前、本当にそう思ってんのか?“暗殺者”とか“兄貴が”って言うとき、お前凄く悲しそうな顔してる」

「…………」

「ていうかお前の兄貴、イルミっつったっけ。私アイツ嫌いだ、なんか鬱陶しいし“オレが教育してたのに”だの“お前にキルと話す資格ない”だのすっげームカつく生理的に無理気に入らねー」

「…………」

あれ、なんか後半ただの愚痴?
それに……と更に言葉を続けるかと思われたが、そいつは一旦言葉を区切ってオレと正面から目を合わせると、もう一回くしゃりとオレの髪をかき混ぜた。

「シルバに頼まれてやってることだから好き勝手は言えないけど、私はお前を“暗殺者の跡取り息子”として見る気はないから。教育者として接するんじゃなくてもっと……そう、友達みたいな感覚で付き合いたいな」

「友達……」

「ああ。6つも上じゃ友達感覚って難しいかもだけど」

そう言ってそいつは、ルーシャは笑った。
お姉ちゃんでもいいぞ、と言った奴がなんだか馬鹿らしくみえて、皮肉たっぷりに顔を歪ませて「じゃあルー姉、な」そう言ってやった。オレの表情に一瞬きょとんとしたルーシャは、少し間をおいてから嬉しそうにはにかんだ。

「おっし、じゃあ続き再開するか!」

満足気なその声の真意がよくわからなくてますます不機嫌になったオレのことなんて気にせずに、ルー姉は組手の構えをとった。にやりと口角を上げて人差し指をちょいちょいと動かす姿が妙に腹立たしかったのがすごく記憶に残ってる。
そういえば、今だから言えることだけど、普通友達って凄んで相手を怖がらせたりとか圧力かけたりとかしないよな?やっぱり友達は無理あったんじゃないの、ルー姉?

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