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〜ヒソカの場合〜

「師匠とビーンズにも渡したし、ビスケちゃんにもあげたし……」

肩に担いだケースの中身をちらりと見る。

おかしい。

私はしっかり渡す人数を確認してチョコを作ったはずだ。
なのになんで、

「余ってるんだ……」

どうやらまだ渡すべき人間が残っているらしい、展開的に考えて。一人思いつく人物がいるにはいるが、そいつのことは考えたくない。なんかわいて出てきそうで。

「コレはボクのだよね◇」

「うわ来たよ」

早速来た。少し頭に浮かべただけでこれだ、もうコイツのことを考えるのは今後一切止めよう。
いきなり視界に入ってきたピエロは、それが当然と言わんばかりの動作でケースの蓋を勝手に開け、最後のチョコをかじった。残ったやつは私が食べようと思ってたのに。

「……ん、美味しい◇料理上手なんだねルーシャ◆」

「正確にはお菓子作りが得意というべきだな、どっかの甘党のせいだ」

嫌なことを思い出しそうになった私は眉を潜めて自室へと歩き出した。てか何でいるのコイツ。協会本部何やってんだよ、こんな不審者中に入れて。
しかも着いてくるし、チョコ食われたし。

「私食べて良いとは一言も言ってないんだけど」

視界にも入れずにそう言うと、にっこりとヒソカは笑って――――まあいっつも笑ってるんだけど――――私の進行方向に立ち塞がった。

「食べるかい?」

「は?」

私の作ったチョコの一欠片を口に運んで、ヒソカはにやりと笑った。
いや、食べるも何も今お前が食べたやつで最後……

「……っ!」

いきなり近づいてきた顔に体が一瞬硬直した。
向かい合うヒソカの瞳の中にぽかんと呆けた私が映っているのが見える。その瞳が薄く細められ、そしてぼやけた。
ヒソカの指が頬に触れ、ぐい、と頭を引きよせられたところでようやく私の体はそれを回避する行動に移った。

ドカッと重い音が廊下に響く。同時に目の前のヒソカは横に吹っ飛び壁へと激突した。

「……、っ……!」

「何やってんだテメーは」

「……ひどいな、何も拳で殴ることないじゃないか◆」

「ひどいのはどっちだコラ」

コイツ信じらんねェ。コンクリート詰めにして海に沈めてやりたくなる衝動が芽生える。怒りのせいか拒否反応のせいか、握りしめた拳がふるふると震えた。

「ボクがチョコを食べたのが気に入らなかったのかと思ったから分けてあげようとしたんじゃないか◇」

「去ね頼むから!切実に!」

そしてそのチョコはお前のじゃねェ!何が分けてやるだ!
キッと睨んでそう言ったが、奴は肩を竦めただけでしつこく後ろから着いてきた。しかも何か色々喋ってくる。
バレンタインっていうのは云々、チョコを渡したら云々と永遠に話し続けるヒソカはとてつもなく鬱陶しい。だんだん苛ついてきた私は振り向いて怒鳴った。

「もうちょい簡潔に喋れや!!」

「キスミー◇」

「思った以上のド直球ッ!予想の斜め上ッ!!……いや寧ろ予想通り?」

「でも冗談じゃないからね◇」

今日のヒソカは妙に迫ってくる。なんだ?バレンタインで浮かれてるのか?
どっちにしろさっき食ったイルミのクソ不味い毒入りチョコの味がまだ口の中に残っている。私とキスすればヒソカにも毒が回って奴はあの世行きだ。……アレ?つまり万々歳?

「毒の味のキスね◇なかなか君におあつらえ向きじゃないか◆」

「まだいんのお前」

「まあどうであってもボクは気にしないけど◇」

「帰れよ」

「むしろ喜んで……」

「ねえ聞いてる?私の声は届いてますか?」

「君とのキスで死ねるなら、ボクは喜んで命を差し出そう」

「…………」

気障な台詞をまるで当たり前のように吐いたヒソカ。あんまり気障過ぎるから一瞬黙ってしまった。その隙に笑って私の手をとった奴は、跪くようにして手の甲に口付けたのだった。


Happy Valentine?


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