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〜ゾルディック家の場合〜


「ありがとうございます、ルーさん」

「ゴトーさんにも色々お世話になってるからな。一応他の執事さんにも、ホラ」

「本当に毎年ありがとうございます。ルーさんのチョコ、執事の間でも好評ですよ」

「そりゃ良かった」

ただいまゾル家。
執事室でゴトーさんにチョコを渡し、本邸へと向かった私は途中の廊下で肩をぐるぐると回した。
何しろ執事の人数が多いから、持ってきたチョコの量も結構多かったのだ。流石に全員の分を作る暇も材料もなかったから、ゾル家のみんなやゴン達よりは小さいものになったけど。
どっちにしろ最初に執事室で渡した分、ケースの中身は随分軽くなった。さ、順番に回っていくか。


□□□□


「ルーちゃん!バレンタインのチョコよ、はいどうぞ!今年は頑張ったわよー!」

「流石キキョウさん、毎年凄いですね」

最初に会ったのはキキョウさんだった。後ろにはカルトも。
いつもありがとうございます、と言って受け取ったものはかなり立派な装飾を施したチョコだった。チョコなのに何故か光ってる……何で?

それよりも、気になるのは中身だ。毎年キキョウさんのチョコはとても凝っていて美味しいんだけれど、一つ大きな問題がある。
それを確かめるべく、私は恐る恐る彼女に尋ねた。

「あの……今年は何ですか?」

「フグと、ドクゼリと、あとトリカブトよ!ルーちゃんはどれがあたるかしら?」

(ああ……トリカブトは病院コースだな)

毒さえ入ってなきゃ完璧なのに、毒さえ入ってなきゃ。
二つは耐性があったから良いものの、(良くはないが)もう一つが当たればしばらく普通の生活はできそうにない。まさに命がけのロシアンルーレット。

それなら食べなければ良いのにと言われそうなものだが、毎回キキョウさんがチョコの感想を聞いてくるのだ。しかも結構細かい事を。
私の舌が敏感だと思っているのか知らないが、ことあるごとに彼女は何か作って味を確認させに私に持ってくる。毒の耐性がついたのは半分これのせいだ、絶対。

今年もそれを食べ切ってみせるという覚悟を心の中で決めた私は、二人にそれぞれ持ってきたチョコを渡した。

「ありがとうルーちゃん!」

「どういたしまして。はい、カルトにも」

「ありがとう。……あの、ルー姉様」

言葉少なにカルトがおずおず、という風に両手で箱を差し出してきた。可愛らしい仕草に抱き着きたくなる衝動をかろうじて抑え、その箱を受け取る。たぶんチョコだろうけど、もしかして手作り?

「美味しいかどうかは分からないけど……あげる」

「……っ(萌えるぅうウッ!!)ありがとう。後で食べるの楽しみだな」

なんとかポーカーフェイスを保てた。あそこで気を抜いてたら絶対に気持ち悪い感じのにやけ顔になってたな。危ない危ない。

「ボクのはフグだから」

「あ……ありがとう」

私、本当に大丈夫か。


□□□□


場所は変わりフィギュアだらけの汚い部屋。

「オラ、毎年恒例のチョコだ、受け取りな」

「今年もまたツンデレキャラかよ!天然キャラか妹キャラでって毎回言ってるだろ!」

「誰がツンデレだ」

コイツは毎年毎年何を言ってるんだろう本当に。私が天然キャラもしくは妹キャラなんかやったら見てるほうもやってるほうも気持ち悪いだろうが。

「テメーの要望にいちいち答えるわけねーだろ。貰えるだけありがたいと思え、ブタくん(はぁと)」

「……ぜんっぜん萌えねえ」

キャラ云々は知らないけどウインクしながら笑顔でそう言ってやったら、ミルキは失礼な台詞を吐き捨てながらチョコの入った袋をひったくった。
なんだかんだ言いながらも食べるものは食べるんだよな、コイツも。食い意地張ってるって言うのもあるけど、素直じゃないところはキルアと同じだ、流石兄弟。

さっさと退散しないとおかわり要求されるから次行くか。


□□□□


「あ、ゼノさんこんにちは」

「ルーシャか。こんにちは」

偶然廊下で会ったのはゼノさんだった。今日も一日一殺の物騒なものを掲げている。彼は私が持っている荷物に視線を向けてそれは?と中身を聞いてきた。

「チョコですよ。今日バレンタインですから」

「ほう。……(ワシにもくれるんじゃろ?わくわく)」

「じゃあ、ゼノさん失礼します」

「え?ああ……(チョコは?)」


数時間前。

『お義父様にはしっかり時間を決めて出すわね。健康には気を付けないと、チョコなんて糖分が高いもの中途半端な時間に食べさせる訳にはいかないもの』

『そうですね。お願いします』

(……あの物欲しそうな顔は見物だったな)


□□□□


シルバの部屋。
ノックして入ると、シルバは悠々とした姿でソファに座っていた。どこかスタンバイしていたように見えるが……気のせいか?

「おお、来たか。早速……、……何だ」

「いや、なんかただやるだけも面白くないしなー……あ、そうだ、ホワイトデーに返してもらうの面倒くさいから今くれ、三倍返しで」

「……は?」

こんなもので三倍返しなのか?とシルバは言いながら見るからに高級そうなチョコを箱ごと(たぶんギフトセットだ)三つほど抱えて持ってきた。この金持ちめ、だからキルアの金銭感覚もおかしくなるんだ!
その場で一つ頂きました。


□□□□


「ルーシャ、」

「……なんだイルミか」

またしても廊下で人と会った、しかもよりによってイルミ。
コイツの分は持ってきてない。当たり前だ、お互いこれだけ仲が悪いからあげたとしても直ぐに捨てられるのは分かっている。
向こうもそれは承知しているはずなんだけど、今日は珍しく「今日何の日か知ってる?」なんてわざとらしいことを言ってきた。

「テメーに食わせるチョコはねェ」

「…………」

「じゃあな」

「そっちに用はなくてもこっちにはあるんだけど」

「いたたたたァッ!!髪引っ張るな何だお前は!!」

解放されてから振り返ると、イルミの手には小さな袋が握られていた。どうやらキルアにらしい。去年みたいにチョコロボ君送ったほうがずっと喜ぶと思うけどな。
イルミ曰く「手作りの方が愛情がある」だそうな。ハッ!!(←鼻で笑った音)

「正直ルーシャなんかに頼みたくはないんだけどさ、今キルが何処にいるのかわかるのルーシャだけ――――」

「……うわ不味ッ」

どこをどうしたらこんなものが出来上がるのか甚だ疑問だ。しかもコレも毒入り。その後は……まぁ案の定針が数えられないほど飛んできた。

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