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「いらっしぇ――い!ご注文は?」

「ステーキ定食二人前」

「…………。焼き方は?」

「弱火でじっくりねー」

「あいよー」

「お客さん奥の部屋へどうぞー」

店員の誘導に従い、二人は店の一番奥の席につく。ステーキ定食が運ばれ部屋の扉が閉まると、機械音が小さな部屋に響いた。
微かに下に落ちる感覚。振動と共に部屋はゆっくりと下降していく。運ばれてきたステーキにすぐに手をつけたルーシャとは反対に、キルアはキョロキョロと部屋を見渡す。

「へー。なるほどこういう仕組みか」

もしゃもしゃ。

「超難関って言われてるけど、会場までこうもあっさりたどり着けるなんてちょっと拍子抜け」

むぐもぐ。

「面白そうだから試験受けに来たってーのになー」

くっちゃくっちゃ。

「……オレのステーキにまで手出すなよ馬鹿!」

「えーさっきから食べてないから要らないのかと思ったのに。ちょっとぐらいくれよ。あと馬鹿って言うな」

「ダメだオレだって腹減ってんの!それにルー姉は馬鹿だろ」

無言で食を進め、キルアの皿にまで手を伸ばしたところでそう止められたルーシャ。馬鹿じゃねーよ!と下らない議論を繰り広げる内に、部屋と二人はどんどん地中へと沈んでいく。

「だーかーら!!ルー姉はーーーーあ」

「着いたな」

すっかりステーキを食べ終わった頃、ようやく試験会場に到着したガタン、という機械音と一際大きい振動が響き、部屋は停止した。二人はゆっくりと開く扉に向き手荷物を持って立ち上がった。

(―――ムサいッ!)

扉の向こうの景色が見えた途端、ルーシャは心の中で叫んだ。
その地下道にいたのは100人弱の人間。予想通り、大半が男たちで占められている。広い空間だが、むさ苦しい嫌な熱気が肌を撫でていった気がしたルーシャは身震いした。

試験開始時間まではまだ随分ある為、これから更に人口が増えると思われる。
あと数時間もこんな光景を見ながら、しかもますます男臭くなる空間で過ごさなければならないのか。知らず知らずの内に深い溜め息が口から漏れ出ていた。

「はぁーーーーーーーー」

「長っ。しょーがねーだろそんな溜め息ついても。ま、頑張れよー」

「楽しんでるだろキルア」

「やだなぁーそんなわけないじゃん」

そう言いつつも楽しげな笑みを浮かべてこちらを見つめるキルア。このガキは……と、口にはしなくともじろりと彼を睨み付けたルーシャだった。

「しっかしオレの家庭教師ともあろうものがたかが男に怯えてるなんてなー」

「怯えてるんじゃなくて嫌なだけだ。あと家庭教師は関係ないだろ」

「補足説明だよ」

「?」

そんなわけで、彼女はキルアの家庭教師である。ただし教えているのは格闘技術だ。
元々とある場所で彼の父――シルバと知り合い、度々訪ねる内に彼に訓練相手を頼まれたのが始まりだった。
他の兄弟とも顔見知りで、ゾルディック家の人たちとはかなり打ち解けている。一族の人間にはほぼ親戚のような扱いを受けており、毎回家を訪れる度に使用人たちにも「おかえりなさいませ、お嬢様」と言わんばかりの歓迎ぶりで、恭しく頭を下げ出迎えられているのである。

そう話している内に、豆……もとい、ハンター協会会長の助手からプレートが手渡された。二人はそれぞれプレートの番号を確認し、身につける。

「あ、私100番だ」

「オレ99番。ルーね…ルーキリいいな」

二人はルーシャの提案で地下の空間の角に、なるべく人の少ない所へ移動し、試験開始までの空き時間をひたすら雑談をしながら過ごしたのだった。

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