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数日後、空港の待合席にて。

大勢の人でごった返す広いロビー。慌ただしく搭乗ゲートへ向かう者、久々の再会にはしゃぐ者、家族旅行を楽しむ者。広いその空間には様々な声が飛び交っている。

そんな中、さして言葉を交わす訳でもなく、隣同士の席に並んで座る男女が一組。
一人は、切れ長で色素の薄い瞳を細めている、ピエロのメイクをした男。
もう一人はコートを羽織り、長い金髪を結い上げた釣り目がちの美女。
余りに目立つアンバランスな組み合わせのその二人は、しかしどこかしっくりくるような、ピースがぴったりとはまるような奇妙な感覚を道行く人々に与えた。

「で、ヒソカ。お前これからどうするんだ?」

そんな中ぽつりと呟いた女―――ルーシャの言葉に、目線だけをそちらへ向けたヒソカと呼ばれた男は人を喰ったような笑みを崩さず応えた。

「予定通りクモの集まりに行くよ◇クラピカとも会う約束をしてるしね」

「そうか」

一言だけ返したルーシャの表情は険しい。組んだ腕を痛いほど握っているのは誰の目から見ても明らかだった。

「……いいのかい?」

「わざわざそれを聞くか。お前が決めたことだし、今更クモがどうなろうと私の知ったことじゃない。好きにすればいいだろ」

「…………そうか◇」

ロビーにアナウンスが響いた。彼らは同じヨークシンに行くのだが、ヒソカは私用船を持っているため空港の飛行船に乗る必要がない。別々に向かおう、とどちらかが提案した訳でもなかったが、これからのお互いの行動を考えればそうするのが一番都合が良かった。
軽い手荷物を持って立ち上がったルーシャは、一歩踏み出してからちらりとヒソカを振り返る。

「じゃあな。ヨークシンで鉢合わせたりしないことを願ってるよ」

「……そうだね◇」

短い会話の中で一瞬、視線を交わしてルーシャはその場を去った。

蜘蛛は動く。
巨大な網を張るその手足を大きくしならせて。
そして網の隙間を巧みに掻い潜り、それを引きちぎるまで止まらぬ緋。
奥へ奥へと進むその背中を追いかけるため、ルーシャは動き始めた。



□□□□



「――――以上が盗品の主なリストだよ。まあ、全部だから大して見る必要もないんだけど」

「じゃあいらねーだろこんな紙切れ。シャルは神経質すぎんだよ」

「ウボォーが大雑把すぎるの!一応念のため、ね」

「他に報告がある者はいるか?」

「……あ、あのさ団長…」

「何だ?マチ」

「今回の活動には直接関係ないんだけど……ルーシャが」

「……ルーシャ?」

(フランクリン。ルーシャって誰?)

(そうか、シズクが入る前だったな。前の4番のことだ)

(前の4番……ヒソカの前ってこと?)

(ああ。3年前に今と同じくらい大きな活動があってな。その時死んだ……と、オレたちは今の今まで思っていたんだが……)

「あの子、生きてたんだよ……この間、偶然見かけて……」

「だから何ね。今は空き番ないし、また団員に加えるのは無理に決まてるよ」

「別に連れ戻したいとは言ってないだろ」

「じゃあ報告の必要ねーじゃねェか」

「ノブナガ……」

「アイツはアイツでまた別の人生送ってんだろ?放っといてやれよ」

「…………」

「―――マチ」

「あ、ああ」

「……いや、全団員に告ぐ。――――ルーシャを見つけ次第捕らえて連れてこい」

「!!」

「なっ……正気かよ団長!」

「不満か、フィンクス?」

「当たり前だろ。今更アイツを連れ戻してどうする?ルーシャは……もうクモには必要ない」

「そうね。ワタシまたアイツの顔見るのごめんよ」

「シャル、情報を集めろ。3年前から順にだ」

「……団長、ホントにいいの?」

「何がだ?」

「…………。ううん、なんでもない。分かった」

「お、オイシャルまで……」

「これは無期限の団長命令だ」

「……!」

「しかし、まずは次の活動が先。地下競売のお宝を丸ごとかっさらう。それを優先しろ――――作戦決行は明日だ」

蜘蛛は動く。
背後に蠢く小さな影に気付かぬまま。
ほんの少し軌道を反らして張られた網に思わぬ獲物がかかることは、彼ら自身預かり知らぬことであった。

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