4/4 それから一週間後の7月24日。 すっかり傷も治ったルーシャとゴン、キルアは天空闘技場の出口にいた。 「本当に治ったの?ルーシャ」 「ああ、元々骨は問題無かったし、傷だけなら絶をしておけばすぐ治る」 「ま、骨バキバキに折っておきながら普通の4分の1の時間で全快したゴンには、言われたくねーよなー」 「う、うるさいなーキルア」 既にズシとウイングには挨拶を済ませ、三人はもう何時でも出発できる状態だった。これから二人はゴンの故郷であるくじら島へと向かうらしい。ルーシャも出来ることなら一緒に着いていきたかったのだが、彼女の師匠……ネテロがそれを許さなかった。 『まあ、傷が治ったら一旦帰ってくるといいじゃろ。ワシも暇だし』 (暇つぶしに弟子をいたぶるつもりだあの性悪師匠!!) という悪態を心の内に収め、「分かりました」と答えたルーシャは、ゴンとキルアと離れ、自身の住処であるハンター協会本部へと帰ることになったのだ。 「うわー帰りたくねーうわーうわー」 「うるさいルー姉」 「だってさー私だってゴンのおばさん……ミトさん、だっけ?挨拶しときたいしさ」 「じゃあ一緒に来ようよ!ネテロさんにはちゃんと断ってさ」 「それが普通に出来れば苦労はしないんだけどな……」 怪我が治ったにも関わらず彼女の顔色は悪い。これから訪れるであろうこき使われる日々に、帰る前からルーシャはげっそりと憔悴しきっていた。 だがその現状をどうすることも出来ず、空港まで歩いてきた彼女は、泣く泣く二人と別れた。 「じゃあルーシャ、9月1日にヨークシンでね!」 「あ、あぁ……」 その言葉を最後にロビーで別れた三人。 楽しげなゴンとキルアの後ろ姿を眺めながら、先程ゴンが発した言葉を繰り返す。 「9月1日、ヨークシン……」 あと一ヶ月強に迫ったその時。 結局闘技場にいる間に二人に伝えることはできなかった。元々ヨークシンで五人全員揃った時に話そうと決めていたことではあったが、やはり早い内に伝えた方がいいのでは、そういった気持ちもあったのだ。 「あーなっさけねー。女々しすぎる」 いつまでもうだうだと悩む自分に苛立ち頭を掻いたルーシャは、その思いを振りきるように大股で行き先に向かう飛行船へと歩いた。 もう覚悟は決めた筈だ。 その時を最後にあの四人とは二度と関わらない、と。 □□□□ 「師匠ー帰りましたよー……」 「おぉ帰ったかルーシャ!久しぶりじゃの」 「おや、お久しぶりです、ルーシャさん」 「そうですね……あれ、パリストンさんもいたんですか?こんにちは」 「こんにちは。業務の話で少し会長とお話をしてたんですよ」 「いや、ルーシャも帰ってきたことだし話はそれくらいにしようじゃないか(正直面倒くさい)」 「あれ?よろしいんですか?このままではこの件は私に一任するということになりますが」 「ぬ、うぅ〜む……」 「ルーシャさんも疲れてらっしゃるでしょうし、こちらの話も終わってません。まあ、ボクに全て任せてくださるならそれでいいんですけど、会長としてはそっちの方が何かと面倒ではありませんか?それに―――」 「師匠、じゃあ私部屋に帰ってますねー」 「お、ま、待たんかいルーシャ!」 「会長?」 「…………(全くこやつら……!)」 □□□□ 「パリスマジナイス!」 廊下で一人、るんるん気分で親指を立てた。 ハンター協会副会長、パリストン=ヒル。 彼は私と同じく3年前にこの協会にやってきて副会長に就任した。協会の中で派閥を作ったりとか協専ハンターを抱き込んだりとか、黒い噂が絶えない怪しい人物。……と、いわれてはいる。 実際協会の有事の際は、必ずといっていいほど彼は邪魔をしてくるらしい。 だけど正直、私はハンター協会のことはどうでもよかったりする。私が協会にいるのは単に成り行きもあるけど、師匠に恩を感じてる、それが一番の理由だ。一応保護してもらっている立場だから、それなりに好き勝手はしないように心がけている。 ただ、だからといって協会が大事って訳じゃないし、運営を邪魔するパリスの事も別に嫌いじゃない。というより実は、寧ろ彼のことは好意的に見ていたりする。あくまで私に影響する面でのみ、だけど。 彼は師匠になにかとちょっかいをかけるのが大好きらしく、その度に上手いこと師匠の嫌がらせから私は逃れられるのである。本当に偶然が重なっただけかもしれないけど、パリスと一緒にいるときは大抵師匠が私の相手をする暇はない。結果私は出来るだけ師匠から離れられるのだ。 だから密かに親しみをこめてパリス、なんてあだ名で私は彼のことを呼んでたりする。とてもじゃないけど本人の前では言えない。 都合の良い奴だと私は思ってるけど、向こうがどう考えてるかはそういえば私自身よく知らない。あんまり喋る機会もないし。 それに加えて、私はハンター協会会長の弟子でありながら、協会本部には煙たがられている。そりゃあ、数年前に突然身元不明の年端もいかない少女連れてきて「弟子だ」とか言われたら、普通は怪しむだろうしな。 そんな出所の怪しい私を、寧ろ興味津々といった目で見てくるパリスの視線だけが唯一苦手っちゃ苦手なところ。それ以外は割りと付かず離れずな距離で付き合ってる感じだろうか。 「とにかく、せっかくパリスが引き留めてくれたからゆっくり休むか……」 そう呟いて軽い足取りで自分の部屋まできた私は鍵のかかっていない扉を開けた。 「やぁ◇待ってたよ◆」 ごめんパリス、休めなさそう。 [前] | [次] 戻る |