6/6 「クリティカル、アンドダウン!!3ポインッ!ルーシャ!7−7!!」 『ルーシャ選手、追い付いたァーーーーー!!!どこまで続くんだこの戦いはァァーーー!!』 「出来ればずっと、かな」 実況に律義にも答えた声の主は口元に笑みを浮かべながら、立ち上がろうとする獲物を狙う。 ヒソカは迫る彼女を足止めするべく、反撃にトランプを投げた。 だが――― 「!!」 あっけなく鋭いカードは彼女の肉を切り裂いた。急所のみを最低限の動きで避けるが、左肩と脇腹に突き刺さるそれはまるで見えていないかのようにそのままで、追撃が止まることはなかった。 右の掌をヒソカにかざすルーシャ。 途端、そこに出現したキューブから、何かが飛び出した。 「ッ!」 間一髪でそれをかわしたヒソカの目元に、赤い筋が一線、刻まれる。 迷いなく眼球を狙ったのは、先程リング外に彼が放り投げた日本刀だった。 標的を外したと分かると、再び現れたキューブにそれは飲み込まれて消える。 (空間移動……!放出系能力!!) 自分の性格分析が不正確だったのだろうか。彼女は放出系能力者?しかしヒソカの頭に浮かんだ疑問を解決させたのは、他でもないルーシャ自身だった。 「お前、私が変化系だって推理してたけど、それは半分正解で半分ハズレ。私は“元変化系”だ」 「…………特質系、か◆」 「そ。……ははは、やーっと分かってくれたぁ?」 変に間延びした声は、明らかにいつものルーシャではない。呆然としたゴンの隣で、キルアはぎゅっと両手を握りしめた。 (くそッ……正気に戻ってくれ、ルー姉!!) 「……っく、ククク……!」 「ふふ、あはは…あはははは!」 二人の笑い声が血飛沫の中で響く。 観客から見ても、明らかにルーシャが押している状況だ。だが、飛び散る血液も、ほとんどルーシャのものだった。 それというのも、彼女が急所以外の防御をほぼしていないのが大きい。目の前の敵……否、獲物を狙うぎらついた瞳は、対象が動きを止めるまで止まらない壊れた人形を思わせた。 「…………◇」 「……あ?おいヒソカ、なにやってんだ?」 日本刀を振り下ろそうとした手が止まる。がしゃん、と重い音がするのと同時に刀がルーシャの手から落ちた。 というのも、ヒソカのバンジーガムにより再び彼女はぐるぐる巻きにされていたからだ。 伸びる15本のオーラを全てルーシャの身体に貼り付けたヒソカは、何とも言い難い……この闘技場に不釣り合いな表情をしていた。 いや、闘技場云々さえ関係ない。 本来殺しあいや血を見ることがなにより快感であったはずのヒソカが、ルーシャが血に濡れていく度に殺気を収めていったのだ。普段の彼ならあり得ない行動だった。それに気づいたルーシャは眉を潜めて俯いた彼を見つめる。 「ヒソカ……?」 「………なんでだろう?楽しくないんだよね◇」 「は?」 「血に濡れたキミはとっても綺麗なのに……キミを殺すことを考えるだけで興奮して仕方がないのに……」 「……おい、こっちが真面目にやりだした途端それか?喧嘩売ってんのかてめえ」 二人の間は3メートル弱。 そのちょうど真ん中に、ルーシャのキューブが出現した。 「今度は手加減もしない。全力出せばこの天空闘技場も軽く吹っ飛ぶけど……もうどうでもいいや、なんか面倒くせーし。力比べならぬオーラ比べ、だな」 「…………」 「止めてみろよ」 「…………」 静かにバンジーガムが外れた。拘束を解かれたルーシャはぼろぼろの身体を動かし前へ突進する。手には刀。 心臓をめがけて、右手が突き出される。 ヒソカは、抵抗しなかった。 「え………」 次の瞬間、血まみれのルーシャは、ヒソカの腕の中にいた。 実況、審判、観客全てが、それを認識する前に―――― キューブから放たれた眩い閃光が会場内を包んだ。 [前] | [次] 戻る |