5/6 「え?」 気の抜けた声がルーシャの口から漏れた。 ヒソカに設置していた爆弾を爆発させたのだ。さっき三つ程消費したものの、彼の身体にはもう一つ、ルーシャのキューブが残っていた。 爆音と、設置したキューブが爆発する様はしっかりと見たが……彼は倒れるどころかダメージすら受けているように見えない。 今度はヒソカが笑う番だった。 「言っただろう?ボクの“伸縮自在の愛”は、『ゴムとガム』、両方の性質を持つ◆」 「……あああああ!!」 『おっと、いきなりルーシャ選手叫びました!!どうしたんでしょうか!』 「馬鹿だー私馬鹿だぁ……!!」 どうして気づかなかったのだろう。 爆発の衝撃など、ヒソカのオーラで包みこまれてしまえばそれで終わりだと言うことに。ゴムの性質をもっているということは、衝撃を吸収する力は普通のオーラより格段に高いのだ。 今更ながら能力の相性の悪さに気がついたルーシャは、試合中にも関わらず頭を抱えた。 「うわーこれ詰んだぁぁ……!」 「……マズい」 「え?」 ゴンが隣にいるキルアの顔を見る。 「ルー姉のやつ、普段あれだけ強いから……自分のペースを失うなんてこと滅多にないんだよ」 「あー……いつもマイペースだしね」 「そうなんだ。でもその滅多にないルー姉のペースが一度崩れたら……」 「まさか、負ける?」 「いや……そうじゃない」 「?」 キルアの瞳は、彼女の形勢を心配するものではなく、ここから離れたいという恐怖の色を宿していた。これから起こるであろうことを予測し、額から冷や汗が流れ落ちていく。 「自分の調子を崩されると……ルー姉は何をやらかすかわからない」 「……え、」 それどういう意味? そうゴンが聞き返そうとした時、実況が歓声を抑えて闘技場に大きく響いた。 『なんとルーシャ選手、なす術なく翻弄され一撃!!ヒソカ選手更にリードオォォーーーーー!!どんどん加算されていきます!!』 キューブが効かないと分かった以上、なんとか念の基礎、応用のみでヒソカに対峙せねばならなくなったルーシャ。しかしそんなハンデを負って戦えるほど、相手は弱くも、まして甘くもない。 案の定形勢は逆転。加算される内にお互いの得点は7ー4となった。 「ククク……もうなす術なし、かい?つまらないなァ◇」 「ぐっ……!」 胸ぐらを掴まれる状態で彼女は空中に吊り上げられた。二人の顔が近づく。 抵抗する力さえ残っていないのか、ルーシャは大人しくヒソカの腕にぶらさげられた。 震える細い手が、筋肉に包まれたヒソカの腕に掴まる。弱々しく足掻くその動作を、彼は冷めた目で見つめた。 「これで終わりか……がっかりだよ◆」 「あ、のさ……」 「?何だい?」 苦しそうに顔を歪めながら、ルーシャは薄く目を開いてヒソカを見た。至近距離で二人の視線がかち合う。 「私さ、ひとつ…お前に謝らなきゃいけないと、思っ、て」 「…………?」 「は、ははは……確かにそうだ。殺す気でいかなきゃ、本気とは言えねェよな。ほんと……わ、るかった、よ」 「ルー姉……!!」 キルアの恐れていたことが起きた。 闘技場内の空気が一気に冷えきった。 あまりの変化に観客も一瞬ざわめく。骨の芯まで凍りつく冷気の震源に、程近い所にいたヒソカ。彼はさっきまでの表情が嘘のように、極上の快感を手にしていた。 「あ、ああ……最高だよ、ルーシャ◇キミは……やっぱりそうでなくちゃ」 ヒソカの腕に添えられていた彼女の手に力が入り、きしむ音を立てる。瞳孔の開いた蒼い瞳が、ぎろりと彼を見た。 [前] | [次] 戻る |