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「え?」

気の抜けた声がルーシャの口から漏れた。
ヒソカに設置していた爆弾を爆発させたのだ。さっき三つ程消費したものの、彼の身体にはもう一つ、ルーシャのキューブが残っていた。
爆音と、設置したキューブが爆発する様はしっかりと見たが……彼は倒れるどころかダメージすら受けているように見えない。
今度はヒソカが笑う番だった。

「言っただろう?ボクの“伸縮自在の愛”は、『ゴムとガム』、両方の性質を持つ◆」

「……あああああ!!」

『おっと、いきなりルーシャ選手叫びました!!どうしたんでしょうか!』

「馬鹿だー私馬鹿だぁ……!!」

どうして気づかなかったのだろう。
爆発の衝撃など、ヒソカのオーラで包みこまれてしまえばそれで終わりだと言うことに。ゴムの性質をもっているということは、衝撃を吸収する力は普通のオーラより格段に高いのだ。
今更ながら能力の相性の悪さに気がついたルーシャは、試合中にも関わらず頭を抱えた。

「うわーこれ詰んだぁぁ……!」

「……マズい」

「え?」

ゴンが隣にいるキルアの顔を見る。

「ルー姉のやつ、普段あれだけ強いから……自分のペースを失うなんてこと滅多にないんだよ」

「あー……いつもマイペースだしね」

「そうなんだ。でもその滅多にないルー姉のペースが一度崩れたら……」

「まさか、負ける?」

「いや……そうじゃない」

「?」

キルアの瞳は、彼女の形勢を心配するものではなく、ここから離れたいという恐怖の色を宿していた。これから起こるであろうことを予測し、額から冷や汗が流れ落ちていく。

「自分の調子を崩されると……ルー姉は何をやらかすかわからない」

「……え、」

それどういう意味?
そうゴンが聞き返そうとした時、実況が歓声を抑えて闘技場に大きく響いた。

『なんとルーシャ選手、なす術なく翻弄され一撃!!ヒソカ選手更にリードオォォーーーーー!!どんどん加算されていきます!!』

キューブが効かないと分かった以上、なんとか念の基礎、応用のみでヒソカに対峙せねばならなくなったルーシャ。しかしそんなハンデを負って戦えるほど、相手は弱くも、まして甘くもない。
案の定形勢は逆転。加算される内にお互いの得点は7ー4となった。

「ククク……もうなす術なし、かい?つまらないなァ◇」

「ぐっ……!」

胸ぐらを掴まれる状態で彼女は空中に吊り上げられた。二人の顔が近づく。
抵抗する力さえ残っていないのか、ルーシャは大人しくヒソカの腕にぶらさげられた。
震える細い手が、筋肉に包まれたヒソカの腕に掴まる。弱々しく足掻くその動作を、彼は冷めた目で見つめた。

「これで終わりか……がっかりだよ◆」

「あ、のさ……」

「?何だい?」

苦しそうに顔を歪めながら、ルーシャは薄く目を開いてヒソカを見た。至近距離で二人の視線がかち合う。

「私さ、ひとつ…お前に謝らなきゃいけないと、思っ、て」

「…………?」

「は、ははは……確かにそうだ。殺す気でいかなきゃ、本気とは言えねェよな。ほんと……わ、るかった、よ」

「ルー姉……!!」

キルアの恐れていたことが起きた。

闘技場内の空気が一気に冷えきった。
あまりの変化に観客も一瞬ざわめく。骨の芯まで凍りつく冷気の震源に、程近い所にいたヒソカ。彼はさっきまでの表情が嘘のように、極上の快感を手にしていた。

「あ、ああ……最高だよ、ルーシャ◇キミは……やっぱりそうでなくちゃ」

ヒソカの腕に添えられていた彼女の手に力が入り、きしむ音を立てる。瞳孔の開いた蒼い瞳が、ぎろりと彼を見た。

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