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「はぁ……じゃあご要望にお答えして」

随分呑気にルーシャが呟いた一瞬後、全く温度差の違う声が観客から起こった。

ヒソカが爆発した。

「!?」

「なん…だ!?」

いや、ヒソカにつけられていた爆弾のようなものが爆発した、が正しい表現である。いきなりの爆音にゴンとキルアは驚きに声を上げた。
そこまで攻撃力は無かったのか、薄煙が晴れた後のヒソカに大きな怪我はない。額が小さく切れ血が流れてはいるが、恐らくそこまでのダメージはないだろう。
しかし攻撃は攻撃。審判はポイント加算を宣言し、再び二人は3−3の同点となった。

「ど?びっくりした?」

「まあね◆……って、ボクをからかってるのかい、ルーシャ?」

「いや別に?ヒソカはからかっても面白くなさそうだし。今のは対ヒソカ戦で予定してた作戦その1、だ」

今度はルーシャがおどけてそう笑う。
いつも自分のペースに相手を巻き込み、混乱させるヒソカに対抗するように、彼女はわざとらしく両手を広げて宣言した。といっても縛られているためあまり様にはならなかったが。

「種も仕掛けもございません◆…なんつって。とにかく手の内はほんの少しだけど見せた。さ、動くならどうぞ御勝手に?」

余裕を見せ始めたルーシャに薄く笑みを浮かべるヒソカ。
いかにも自信たっぷりな態度、これも作戦の内なのだろう。ヒソカはほんの数秒、口を閉ざした。その間に様々な考察と戦闘法を頭の中で組み立てる。

ルーシャは自分と同じく言葉や演技で人を惑わせるタイプの戦闘法を選んでいる。自分の性格分析でいくと系統は恐らく変化系。しかしさっきの爆発は遠隔操作、つまり放出、操作の複合能力だ。しかもオーラを爆弾に変化させるなどという複雑高等能力。もしこれを主とした攻撃を行うなら、以前のカストロと同じくメモリの無駄遣いになっているであろう。

(バンジーガムを避けなかったのはボクに爆弾を設置していてその余裕がなかったため?)

道理にはかなっているし状況も一致するが、果たしてこの策士な彼女が、仮にもカストロと同じような失態をさらすだろうか。そのようなミスを犯すようには見えない。

(“凝”をしなかったのはミスリード……たぶんわざと?けど、そのためだけにバンジーガムを避けなかったのはリスクが大きすぎる◇)

ヒソカのバンジーガムはかなりの強度を誇る。ちょっとやそっとでは切断など不可能だ。しかしその考えを見透かすように、ルーシャは床を蹴り、出来うる限りヒソカから離れた。

「そういえば、ヒソカは能力の性質から考えて変化系だよな?このゴムよく出来てるし……何かしら制約を設けてそうだな」

「…………◆」

「普通なら変化系の真逆の位置にある操作系に関係する能力っぽそーなんだけど…どっちかというと放出かな?一定以上離れるとガムの強度が落ちるとか」

「へえ◇」

半分正解、といった所だった。
確かにバンジーガムはヒソカから10メートル離れると切れてしまうという制約があった。しかしそれは彼の手からガムが離れた場合のみだ。
推理としては少々不完全だが、その洞察力にヒソカは感嘆する。もちろん表情には出さないが。

「でも分かっているだろう?“伸縮自在の愛”はゴムとガム、両方の性質を持つ◇キミが離れても引き寄せようと思えば直ぐに……」

言いかけて口をつぐむ。
こちらに来るように縮ませたガムが戻ってこないのだ。
ルーシャとヒントの間でぴん、と張ったそれは、お互いに等しい力で引っ張り合っている。しかし両手両足を塞がれたルーシャが、自身の力のみで踏ん張っているとはとても思えない。
答えは一つ。彼女も、ヒソカのバンジーガムに対抗する能力を持っている。

「成る程◇だから捉えられることにそこまで抵抗を示さない訳だ◆」

「最初は出来るだけ避けようと思ってたんだけどな。それにばかり意識を集中させるのもつまらないし」

「でも、コレもコレでつまらないじゃないか◇ずっとオーラで引っ張り合うだけなんて」

ガムが引っ付いている人差し指を軽く振りながらヒソカは拗ねた子供のようにそう呟いた。そんな彼を宥めるように、優しげな笑みを浮かべたルーシャは、表情とは180度反対の冷たい言葉を放つ。

「じゃあ外せ、変態」

「イ・ヤ・だ◇……なんてね」

「…………」

可愛くもない声と当時に外されたバンジーガム。
あっけなく身体の自由を取り戻したルーシャは思いきり顔をしかめて目の前のピエロを見つめた。

「おい、訳分かんないんだけど」

「やっぱりもう少し、キミの力をじっくり見たくて◇」

「……助かるからいいか」

気の抜けた二人の台詞は闘技場の雰囲気を一瞬白けさせたが、その空気は直ぐに熱をとり戻す。
再びかち合った両者は今度は自身の能力を活用してお互いのペースを崩しにかかったのだ。
ルーシャの爆弾が爆発し、ヒソカの背中に殴られたような衝撃が走った。続いて二三、爆発が起こる。全てをその身に受け動きを止めた彼に、ルーシャの蹴りが炸裂した。頭を狙ったが、上手くかわされ筋肉の厚い肩に彼女の足がめり込む。

びぃん、びぃん。
ゴムがうなる音がルーシャの耳に届く。蹴りを放った右足に絡まったバンジーガムが引っ張られ、そのまま足場を失った彼女の顎に衝撃。

(もう一つ隠してたか……)

最初から予想はしていたことだったので今更驚くこともない。それより顎のダメージの方が問題だ。
両者それなりに負傷していたが一撃一撃が重いヒソカの攻撃を全て防御することも出来ず、先に音を上げたのはルーシャだった。
脳まで揺さぶられたことによりたまらず膝をつく。彼女が立ち上がるまでをヒソカが親切に待ってくれるはずもなく。

「うっ……!」

宛にならない歪んだ視界からどうにか彼の姿を感じながら、紙一重でルーシャは身を引いた。その間に右足に繋がれた拘束を“通して”、キューブをヒソカの元へと運んだ。

「!……成る程」

ぐわんぐわんと揺れる頭を回復させる時間がもたらされた。
当然そのままではキューブはヒソカに到達し爆発する。それを回避するためには、仲介役となっているバンジーガムを切り離すのが、反射的に考えられる対処だった。

思惑通りに自身の拘束が解かれ、立ち上がりながらルーシャは笑みを浮かべた。

「両者ポインッ!ヒット、1ポイントルーシャ!!ヒットアンドダウン、2ポイントヒソカ!4−5!!」

審判を鬱陶しそうに睨むルーシャ。一瞬彼女はここでヒソカと戦ったことを後悔した。ポイント制では10点先取されてしまえばもう試合は終わってしまう。もっと長く戦っていたい、こんな場面でもルーシャはそう考えてしまうのだった。

「………はーっ」

大きく息を吐いて今度はしっかりと正面に立つヒソカを視界に入れた。もう脳が揺れる感覚はない。

「今のところ、私が一枚上手だな。ガムをつけられても、私のキューブはそこから伝ってヒソカの所に届く」

「……ということは、逆にガムさえつけなければキミの攻撃は届かないという事だね◇ボクの性格分析ではルーシャは変化系なのに……なぜ苦手な放出、操作を活用する能力なのか気になっていたけど、他人のオーラを媒介に出来るなんてね◆」

にやり、歯を見せてルーシャは笑った。

「さ、どうする?奇術師さん」

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