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瞬間、構えもしていなかった二人は一点で激しく衝突する。いつの間にかルーシャは日本刀を、ヒソカはトランプを持っていた。
キン、と連続で鳴る、金属のぶつかる高い音。
観客や実況には既に二人の姿は残像でしか捉えられない。ゴンやキルアにもはっきりと見ることができないほど、彼らの速度は異常だった。

リングの上で二人は動き続ける。

ルーシャは一度離れ、体制を立て直しヒソカに突っ込んでいく。ヒソカはそれを軽く受け止め更に腕力だけで彼女を振り払った。吹き飛ばされたルーシャは次々飛んでくるトランプを弾きながら、再び体制を整える。

その間にヒソカが迫る。

受け止める。
弾く。
飛びかかる。

単純な動作のようだが二人とも次、その次の手を考えて微妙に攻撃の方法を変えて動いている。
現に、両方とも致命的な傷は受けていないものの、受け止め損ねた攻撃が小さな切傷となっていくつか彼らの体に刻み付けられていた。

「凄い………やっぱりルーシャは凄いよ。あの時もヒソカと互角にやりあってたし」

「あの時?なんだそれ?」

「四次試験の時だよ。オレ、ヒソカをずっとつけてたからさ、ルーシャがヒソカに襲われるの、見てたんだ。助けようとしたんだけど……」

「ああ、そういえば……」

ゴンはあの時のヒソカを思い出す。そしてリングの上の彼を見た。
四次試験の時も凄まじい殺気だったが、今の彼もあの時と同じかそれ以上に殺気立っている。纏をマスターしていなければ気絶するかもしれないような気迫。
そんな彼と対等に渡り合うルーシャに今度は視線を移す。かなりの素早さのため必死に目を動かさなければ見えないが、彼女の気迫はヒソカのそれとは違う。圧倒されるものはあるが、血に飢えたような彼に対しルーシャのそれは純粋な闘志だ。

「頑張れ、ルーシャ……」

ゴンが呟く声を聞きながら、いつも通り闘う彼女をキルアは眺める。彼の口からは、知らずに安堵の息が漏れていた。
最初は同じスピードで動いていたと思われた二人だったが、試合開始30秒。両者の速度に差が出てきていた。

速かったのはルーシャ。

目で追いきれる状態ではあるが、ヒソカは確実にそのスピードに惑わされていた。
捉えた姿に手を伸ばすも、その時は既に影。動く彼女を目は追いかけるが、身体がそれに対応しない。
時折表れる緩急の癖を速くもヒソカは把握しかけていたが、彼女がそれをわざと自分に教えているのは分かっていた。
数えきれないフェイクを織り混ぜた動きにヒソカはほくそ笑む。

(これは……知能戦になりそうだねェ◆このボクと、だまくらかしあいでもするつもりかい?)

左から襲いかかる刀をトランプで防ごうと構える。だが至近距離まで迫ったそれは一瞬だけ刃先をぶれさせ、瞬きの間にヒソカの足を貫いていた。

「!」

リングに縫い付けられた足に気をとられている間に、腹に拳がめり込む。そこでようやくヒソカは刀を持つルーシャの手を掴み、そしてもう片方の手で無防備になった彼女の鳩尾を突き上げた。

「っ……!」

「ぐぁ、っ!!」

両者共に苦悶の声が漏れ、吹き飛ばされたルーシャはリングの床を滑る。
手を離してしまった刀は、ヒソカの足に未だ突き刺さったまま。何の躊躇いもなく己の足に残ったそれをヒソカは一気に抜いた。
ぎち、と筋肉が音を立て、一瞬後に赤い鮮血が溢れ出すが、オーラを集め直ぐに止血をした彼は、刀をルーシャの手の届かないリングの外へ放り投げた。

スピードはルーシャの方が上ではあるものの、単純な攻撃力ならヒソカの方が上。仮にも女であるルーシャと力の差は歴然だった。

「両者プラス2ポインッ!クリティカル、ルーシャ!ヒットアンドダウン、ヒソカ!2−2!!」

足をふらつかせつつもルーシャは立ち上がっる。試合が始まってようやく二人が対峙する形となり、言葉を失っていた実況が声高にまくし立てた。

「な……ななな、なんとなんとォォーーー!!!予想以上の攻防です!!皆さん、見えましたでしょうか!!あの死神ヒソカと、互角で張り合っていますルーシャ選手!」

「うるっせェな……」

地の底から這い上がるような低い声でそう呟いたルーシャは、受けた拳のダメージを色濃く受けている。軽く咳き込んで足幅を開いてから、仕切り直してゆっくりと構えた。

「やるね◆スピードでは正直ついていけないかも◇」

「なにが“かも◇”だ…どうせまだ本気でやってないだけだろ」

「ホントさ◆誉めてるんだから素直に喜びなよ◇ま、“本気をだしてない”……ってのは事実だけど」

そう言ってヒソカはおもむろに人差し指をくい、と引いた。

「ルーシャ!!」

ゴンの叫ぶ声と同時に、彼女の体は独りでに宙に浮き、ヒソカに引き寄せられる。二度目の拳がめり込んだ。

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