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再びヒソカに突っ込んでいくゴン。衝突した二人は双方凄まじい速さで攻防戦を繰り広げる。数秒のやりとりの中、最初にヒソカの拳がゴンの顔面を捉えた。

「クリーンヒット!!1ポイントヒソカ!!」

「くくく、どうした?まだボクは開始位置から動いてさえいないんだけどねェ……◆」

「え、ホント!?くそーーーー、見てろよ」

楽しげにいつもの笑みを浮かべた余裕綽々のヒソカに、表情を引き締めゴンは立ち上がって再び突っ込んでいく。しかし同じ失敗はおかさない。フェイントを混ぜて攻撃することをヒソカの動きから読み取ったゴンは、彼から一旦離れた。

「だっ!!!」

その掛け声と共にヒソカの目の前に迫ってきたのは――――石板。

『出たァーーーー!!!ゴン選手の石板返しィーーーーーー!!!』

実況の声と同時に、放りなげられた石板は鈍い音を立てて砕けた。ゴンが蹴り飛ばすことにより石つぶてになったそれは、ヒソカに向かって一斉に降り注ぐ。
形の違う石つぶてがばらばらに飛び掛かるのを防ぐ中、ヒソカの視界からゴンが消えた。

(ゴンは!?)

標的を見失った視線が僅かな気配を感じとるまで、コンマ数秒。その時間でゴンの拳がヒソカに到達するのは充分だった。
重い音と衝撃。

その一撃で会場の時間は一瞬、止まった。

「クリティカル!!2ポインッ!!ゴン!!」

『何とーーーー!!ゴン選手にクリティカルヒットがでましたァーーーーー!!!』

「なるほど……『工夫』か」

狭く、隠れる場所もないリングの上で、ゴンは障害物を作り出しそれに紛れることでヒソカの視界からはずれた。

正にハンターらしいやり方。
身を隠して獲物を定め、そして静かに近寄り仕留める。
ゴンのその『工夫』は見事に成功をおさめたのだ。

ヒソカが動いた。

ただし、攻撃のためではない。
目の前に立った彼に、ゴンは黙ってポケットの中にしまいこんでいた、44とかかれたプレートを差し出した。

「やったな」

「ああ」

『今のは一体何だったんだーーーー!?わからーーーーーん!!』

実況の声を背景に手から手へとプレートが渡る。観客の凄まじい声が聞こえないように、二人はお互いの瞳を見続けた。

「念について……どこまで習った?」

「? 基礎は全部」

「そうか。キミ、強化系だろ?」

「えっ、何でわかるの!?」

ヒソカの言葉にすぐにそう返したゴン。その素直な反応は彼の単純さを明確に示す。いかにも彼らしいリアクションに、観客席に座っていた二人はそろって苦笑した。

「血液型性格判断と同じで根拠はないけどね◆ボクが考えたオーラ別性格分析さ◇」

オーラ別性格分析。
それを聞いた時、今まで会ってきた念能力者の顔をルーシャは思い浮かべた。そういえば……系統が同じ者は確かに性格が似かよっていたような気がする。
ヒソカは目の前のゴンを指差し、「強化系は単純一途◇」と実に簡潔な、ゴンにこれ以上ないほどぴったりな言葉でそれを表した。

「ちなみにボクは変化系◇気まぐれでウソつき◆」

「…………」「…………?」

隣同士に座っていた二人はお互いの顔を見合わせていた。キルアの方は首を傾げていたが。

「ボク達は相性いいよ◆性格が正反対で惹かれあう◇とっても仲良しになれるかも◆だけど注意しないと、変化系は気まぐれだから……」

ヒソカはそんな友好的ともとれる態度を示した後、一旦言葉を区切りゴンを凝視する。

「大事なものがあっという間にゴミへと変わる◇」

ヒソカの雰囲気が変わった。ピリピリと張り詰めた空気が漂い、纏うオーラが更に濃密になる。観客席までもそれは届き、ルーシャとキルアは息を呑んだ。ヒソカの目付きは先程の比ではない程、静かな戦意に満ちている。
数秒の後、

「………来る」

ルーシャの声と同時に、ヒソカは動いた。

否、飛んだと言った方が正しいかもしれない。ゴンからは急接近してきたヒソカはそう見えた筈だ。視覚でそれを認識したのも一瞬、顔面を襲った衝撃により小さな体は吹き飛ばされていた。
空中に浮き上がる彼が落ちるより早く、瞬きの間にヒソカの影は移動する。

(速い!!)

再び、一撃。
体制を立て直す前に迫るヒソカをかわすのがやっとなゴンは、ほとんど転がるようにして攻撃を避けた。たった今まで彼がいたところは、ヒソカの蹴りにより瓦礫と化した石板が剥がれて飛んでいった。土煙をあげてボールのように曲線を描いたそれはなんと観客席へと突っ込んでいく。

『クリティカルヒソカ!!プラスポインッ!!3ー2!!』

下敷きになった観客に見向きもせずに次なる攻撃を仕掛けるヒソカ。成す術無くポイントを取られ逆転されてしまったゴンは、作戦を練るため一時距離を取った。
しかし、ヒソカのペースは崩れない。

「ゴン!!『凝』だ!!」

時既に遅し。既にオーラは張り付いていた。抵抗する間もなく引き寄せられたゴンは、その頬をヒソカへと差し出した。



□□□□



結局、試合はヒソカの勝ち。まだまだゴンは軽くあしらわれる程度だったけど、ヒソカに一発食らわせるという当初の目的は果たせたようだし、まぁよくやったと思う。
……え?最近この事後報告みたいな語り口が多い?仕方ないだろ、全部描写するとそれはそれで……

「何言ってんの、ルー姉」

「いや別に。しかしまーだ戦い足りないって顔だな、ゴンのやつ」

「あんだけやりゃあ充分だっつーの!でもあの審判さー、明らかにヒソカに寄ってたよな?」

「多分、危険な試合だって判断したから早めに試合終わらせるつもりだったんじゃないか?流石にヒソカと子供の組み合わせじゃあな……」

ホラ、とモニターに映って取材を受けている、さっきの審判を私は指差した。私の推測は当たってたみたいだ。テクニカルジャッジ?とかいうらしい。細かいことを解説している画面の中からの声を横目に、私たちはゴンの元へ向かった。

「お疲れー、ゴン」

「あ、キルア!ルーシャ!」

「ようやく目標クリアだな」

「うん!」

傷だらけになりながらも、ゴンは笑顔で頷いた。もう少し戦っていたかった、そう言った表情も見え隠れはしたけど。

「あとは1週間後のルー姉の試合だけど……」

そこでキルアは顔を曇らせ私を見た。ゴンも、同じく。

「本当に大丈夫?ルーシャ」

「大丈夫大丈夫!それに今更心配したって仕方ないだろ?もう試合は組んでるんだからさ」

「……。確かにそうだね」

勝ち負けより私は強い奴と戦うっていうのが楽しみでこの試合を受けたんだ。戦いは楽しまなきゃ損ってのが私のポリシーだし、一応。殺される可能性もあるにはあるかもだけど、対策ぐらいは立てる。全く敵わないなんてことはないはずだ。
早めに部屋に帰ると二人に告げて、私は自室へと歩いた。



□□□□



広い部屋に力強い、それでいて滑らかなオーラが充満する。
ルーシャは自室のベッドに座り、目を閉じ練を行なっていた。静かにそのまま人差し指をたてる。そこに、練で練られたオーラが集まっていった。
密度の濃いオーラが指先で凝縮され固まっていく。最初は半透明、そして段々と濃く。最終的に練って集めたオーラは、サイコロのような白いキューブ状になっていた。端から見てもそれがとてつもなく濃密なオーラだということが分かる。

「ふー…………」

指先に立てたそれをみながら、ルーシャは息を吐いた。出来上がったキューブを手の平で転がす。

(さて……どう出ようかな)

目前に迫ってきたヒソカとの試合の為、頭の中で様々な対抗策を組み立てていくルーシャ。その間に彼女の手から生み出されるキューブはどんどん増えていった。部屋に浮かぶそれがかなりの数になると、ルーシャは一旦動きを止めた。

(とりあえず最初に様子見、それから動くか…あいつのバンジーガムは極力避けて……)

つい、と指揮棒を振るような動作でルーシャは右手を上げた。それに従う形で無数のキューブが部屋の中を飛び回る。しばらくして音もなく消えたキューブは、オーラ本来の形を取り戻し、ルーシャの身体へと戻ってきた。

一応、これは彼女なりの念修行である。
元々苦手な系統である放出、操作の能力を高めるため、時折この方法でルーシャは度々トレーニングを行っていた。
しかし度重なる実戦と訓練の末に、この動作はもう苦手と呼べる段階をとうに飛び越えているのだが。

「……寝るか」

ぼすん、と後ろからベッドに倒れ込んだルーシャは、早々に目を閉じる。しかし何時までも眠気がやって来ることはなく、代わりに彼女の口からは漏れたのは押し殺すような静かな笑い声だった。

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