星矢短編 | ナノ







天蠍宮を静かに抜けて、人馬宮の少し下でアイオロス&アイオリアに遭遇した。
彼らは私が風邪をひいては熱を出したと知ると、『私達は風邪をひいた事がないからその辛さは分からないが、早く良くなる事を祈っているよ。』と爽やかに言っていつもの如く鍛練に行ってしまった。



そんな訳で無人の人馬宮を通り抜けて磨羯宮や双魚宮は居住区にいるであろう主に通ると声だけ掛けてスルーした。
いや、カミュもそうするつもりだったがたまたま下の3つの宮の主と出くわしてしまったから説明しただけなんだけどね。














そんなこんなで、ようやく自宮である祭壇宮に到着した私は、カノンによって寝室に運ばれた。



「ほら、着替えろ。その格好では休まらんだろう………俺とカミュで軽いものを作っておくからそれまで寝ていろ。」

「…うん。ありがと。」

「なぁに、お前に倒れられると俺の仕事が増えてしまうからな、構わんさ。」



カノンは私の髪をサラリと撫でると、部屋を出ていった。
それを見送ってからベッドの上に放置していたパジャマを手に取って着替えると、直ぐ様布団に潜り込んだ。





















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「さて、ナマエが食いやすいものを作らねばならんのだが…。」

「ふむ……」


カノンに声を掛けられた私は、氷河が熱を出した際に作ったものを思い出していた。
確かあの頃は……ボルシチを作ったのだが、後から氷河に聞いた話では、彼の出身国である日本では白米を柔らかく煮たような『お粥』と言うものが定番らしい。
味付けは薄い塩味だったり様々だと言う。


だがしかし、私もカノンもそれの作り方など分からないので、いくら米があろうともどうしようもない。





「…米もあることだし、レモンのリゾットでいいんじゃないか?」

「レモンのリゾットか。ならば、さっき買ってきたレモンを使おう。」


袋の中から先程市場で購入してきたばかりのレモンを取り出してカノンに投げた。
彼はそれを受け取ると、料理は引き受けるからナマエが着替え終わっていたら彼女の熱を下げてこい、と言われたので私はその場を後にしてナマエの寝室の前に立った。
ドアをノックしても返事がなかったので『入るぞ』とだけ言って部屋に入ると、布団をしっかり掛けて眠りこけていたので、ナマエを起こしてしまわぬようにソッと近付きベッドの横に椅子を移動させると、それに腰掛けてナマエの様子を伺った。



人形のように白い肌は熱のせいか頬は赤く染まり、浅い呼吸を繰り返していた。


私も風邪など幼い頃に一度引いたかどうか…というところなので、正直に言えば熱を出す辛さは分からないのだが、あのナマエの動きがあんなに鈍くなっていたのだから相当キツいのだろう。
せめて彼女を苛んでいる熱を少しでも和らげてあげなければな。



僅かに小宇宙を燃やし、かつ冷えすぎぬように細心の注意を払いながらナマエの額に手を添えた。
すると、冷気が心地好いのかナマエの表情が僅かに緩み、次いでうっすらと目を開いたのだった。
その瞳は熱のせいでなのか潤んでいて、思わずドキリとしてしまった。



「あ…カミュか。冷やしてくれてるの?」

「あ、ああ。ところで、冷たすぎはしないか?」

「うん、大丈夫。ありがと。」


ニコリと微笑んだナマエに私も笑みを返すと、冷たくて気持ちいいと言ってナマエは目を閉じた。
紅い綺麗な瞳が見えなくなってしまったのを少しだけ残念に思いながらもナマエを冷やし続けていると、その内に美味そうな匂いがキッチンの方からしてきた。
どうやらカノンの方も食事の準備が整ったようで、彼の足音が近付いてきたのだが、どうやら一人ではないようだった。




「入るぞ。」


と、いう声と共に入ってきたのは、リゾットの載ったトレイを手にしたカノンと、何故かシャカだった。
我々が通り抜ける際には瞑想中だったものの、ちゃんと状況は把握していたらしい彼は、ナマエが病に臥せっているのならば教皇宮に行くついでに見舞いでも、と思ったらしい。








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