よお、俺ぁエース!
アンが異世界に来ちまって、その辿り着いた場所の影響でなぜか一時的に甦っちまったみてェなんだが、こうやって実体を持ってみるとなんだか自分が死んだなんて夢を見ただけのような気分になる。
「……いてェ。」
そう思って頬を抓ってみたが、やっぱり痛かったから、これは現実ってことだ。
それに加えて、見知らぬ天井と体に揺れを感じない事、そして耳を澄ませても聞こえてこない波の音に、ここが本当に異世界だって事を思い知らされた。
死んだ人間が生き返るなんて俺達の世界では(いくら何でもありの新世界とは言え)聞いたこともねェし。
…自分の人生に悔いはないんだが、あれが夢だったらどれだけ良かっただろうか……って不意に思った。
目が覚めたらモビー・ディックで、そこにはオヤジがいてサッチもいて……そんなんだったら、とふと思ったんだ。
そうすれば、俺のただ一つの心残りだったルフィの夢の果てをこの目で見ることができたのにな…。
『グララララ、らしくねェじゃねえかアホンダラァ。』
アンの隣の部屋で目が覚めて、ベッドの上でぼんやりとそんな事を考えていた俺の脳裏に、聞き覚えのありすぎる声が聞こえた。
オヤジが語り掛けてくれているような心地になった俺は、そのまま目を閉じた。
闇になった俺の視界に浮かぶのは、ニヤリと笑った俺達の誇りだ。
『エース、オメェが思い残したことを……、今、アンにしてやれることをやりゃあいい。』
「俺がアンにしてやれること、か。」
アンにしてやりたいこと…って言ってもなぁ〜。俺の自己満足だがアンに悪い虫が付かないように守ってやりたいってことくらいなんだけど、それじゃあ今までとほとんど変わらねェな、なんて思ってたらオヤジが豪快に笑っていた。
『グララララ!………あぁ、それでいい。その代わり、俺の分までしっかり守ってやってくれよ?何たってアイツは俺の自慢の娘だからなァ。』
そう言った後再び豪快に笑うとオヤジは俺の前からゆっくりと消え、それから俺は閉じていた目を開くとそこはやはり聖域の、俺にあてがわれた部屋だった。
ただ、さっきと違うのはアンが俺の顔をのぞき込んでるってところだ。
「あ、エース起きた。おはよ!もうご飯出来るってデスマスクが言ってたから呼びに来たんだけどさぁ、エース起きないから行っちゃおうかと思ってたんだよ。」
「…そうか、すまねェな……………って、なんでソイツの名前が出てくるんだ?」
「ん?あー、ちょっと早く起きたから双魚宮のバラ園見に行ったらそこで会ったの。」
聞けば、双魚宮にデスマスクとシュラが泊まっていたらしく、アンの小宇宙(よく分からねェが覇気の事らしい)が近付いて来たのがわかって分かって、アンを朝食に誘ったらしい。
こっちの奴らにとっては異世界から来たアンを(俺もだけど)可愛がってくれるのはありがてェんだが、あまりにも見え見えな下心を持っているようだったら……………………
ちっと焦げてもらおうか。
「?ほらエース。早く行こう!デスマスクの料理は超美味しいもんねー。」
「あー、確かに昨日のメシはうまかったなぁ。」
アンとそんな事を話しながら双魚宮に入るとバラ園の見えるテラスにテーブルを設置してあって、そこにパンなどの料理を置いているデスマスクとシュラがいて、アフロディーテはコーヒーを準備いていた。
「あぁ、おはようエース。きみもコーヒーで良いかい?アンはカフェオレでいいんだったね。」
「うん。ありがとうアフロディーテ。ブラックでも飲めないことはないんだけど、カフェオレの方が好きなんだよね〜。」
そう言いながらアンはカップを受け取ると、フーフーと息を吹きかけて冷ましていた。
その姿が我が妹ながら可愛いんだよなぁ〜!なんと言っても、白ひげ海賊団の『戦うマスコット』だもんな!
あ の マルコもアンのことは猫可愛がりしてたし。
「マルコ、心配してんだろうなぁ。」
「ん?どうしたのエース。」
「いや、ほら。お前ってマルコの背中に乗ってる時に落ちてそのままこの世界に来ちまっただろ?だからマルコ、心配してんだろうなって思っただけだ。」
俺がさっきまで思ってた事を話すと、アンもハッと思い出したように困った顔を浮かべていた(さっきまで忘れてたんだな…)
「なぁ、マルコってのはアンの記憶の中で見た不死鳥に変身する男のことだよな?」
「そうそう!あのパイナップルみてェな頭したオッサンがマルコだぞ!」
デスマスクにそう説明した瞬間、俺の頭に拳骨が振り下ろされるという何ともいえない懐かしい感覚を思い出していた。
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