俺にとってはいつもと変わらぬ海を眺めるアン達の顔を見ると、2人の表情は少しだけ寂しそうではあるが、どことなく安堵しているような色も見せていた。



「海、だね。」

「…あぁ。世界は違っていても海の匂いは変わらねェんだな。」


アンは海に近付いて海水に指先だけを浸けてみるが、突然脱力したかのようにその場にへたりこんでしまったのだ。





「「アン!」」

「あはは……、世界は違ってもやっぱり海には変わり無いや…。」

「バカか!お前は能力者になったんだろうが!」


そう怒鳴りながらエースがアンに駆け寄り、アンを抱き起こそうとするのだが彼に海水が付いた途端に助けようとしていたエースまでもが脱力してしまった。




「え?私に能力が来たからエースはもう大丈夫なんじゃないの!?」

「そ、そのはずだけどな…」


その場から一歩も動けない双子をひとまず海水がつかない場所まで移動させなければならんな…。
そう考えた俺は、まずアンを海から数メートルほど離れた場所まで抱きかかえて移動させると、続いてエースも移動させた。


肩に担いで。








「すまねェ、世話かけた。」

「いや、構わん。しかし、今の話だとお前も能力が使えると言う事になるな。」

「ああ、試してみるか。」

エースは指先を見つめてそう呟くと、そのうちに指先が炎に変わったのだ。




「えー!なんで同じ能力を使えてるの!?」


驚きを隠せないアンにどう言う事か尋ねると、意外にも冷静なエースが代わりに答えてくれた。



「悪魔の実の能力者は同じ時期に同じ能力を持つ事はないんだ。
だから、俺が死んで再びメラメラの実がどこかで成ってアンの前に現れた。」

「なるほど。だがここはお前達のいた世界ではないし、一つに融合していた魂が分離したのだから、能力をそのまま持っていてもおかしくはないのではないか?」


俺の推測を述べると、2人が目をキラキラさせてこちらを見ていた……。
それにしても、アンは本当にこの兄と同じような恰好をしていたのだな。
背中や腕のタトゥーに服装、首飾りも色違い(アンは青でエースが赤)。
まぁ、世界で唯一血の繋がりがある兄妹なのだから仕方ないのだろうか。






俺はサガとお揃いなんか死んでも御免こうむりたいがな。







「それはそうと……この事をアテナにご報告せねばなるまいな。エースもアンも共に来てくれるか?」

「「当然。」」


2人は即座にそう返事をしたので、小宇宙を通じてアテナとサガとシオン様と他の黄金聖闘士に、アン達の件で話があるから謁見の間に集まるように告げ、誰かから『達』とは何だという質問が上がった気がしたが敢えて無視して強制的に通信をシャットアウトして、アン達を伴って十二宮を上り始めた。






















─謁見の間─


「入るぞ…。」


2人に声を掛けてから謁見の間の扉を開くと、玉座にはアテナが座り、その両側にはサガとシオン様が立っていた。
そして、俺以外の黄金聖闘士は星座順に2列に分かれて並んでいた。




「いったい何事だ、カノン。」

「今日はアンとアテネに行っていたんじゃなかったのかい?瞬がそう言っていたけど。」

「そうだよカノン。アンさんは一緒じゃないの?」


黄金聖闘士のさらに後ろに控えめに並んでいた星矢達を代表して瞬が尋ねてきたから、外に控えさせていたアン達に『入れ』と声を掛けると、ギィと軋んだ音をさせて扉が開き、アンの姿を確認した一同はアンの隣に立つ男に驚きを隠そうとしなかった。

その男が、アンの見せた記憶の中で死んだはずの双子の兄だったからである。






「紹介しよう。アンの双子の兄貴のエースだ。」

「俺はエース。妹が世話になってるようで。」

「なんか、私がこっちの世界に来ちゃった事とか、沙織の小宇宙の影響とかで、死んで私の魂と融合したはずのエースの魂が一時的に分離しちゃって、しかも実体まで持っちゃったみたい。」


にわかに信じがたい話ではあるのだが、それはここ聖域ではありえない話でもない事を充分理解しているここのメンバーはあっさりと信用した。
何故なら自分達も死してなお甦ったのだからな。









4/5
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