「…そうか。」

「うん、まぁあっちの世界じゃ私達みたいな生い立ちは別に珍しくはないよ。
ただ海賊王の血が流れてるだけでね。
世界貴族……天竜人なんか人間オークションとか言って公然と人身売買してたり、『攫い屋』に子供とかを攫わせて奴隷にしたり。」


何て世界なんだ。
確かにこちらの世界でも人攫いだとか人身売買なんかはあるだろう。
だがそれは当然ながら犯罪行為であり公に行われるものではない。
あまりの内容に呆然としていると、俺の前に置かれた皿のスブラキが減っている事に気付いた。
そして、アンの前にあったはずのムサカはすっかり無くなっていた。




「アン、お前はもう食い終わったと言うのか。」

「え?うん。カノンってゆっくり食べる派?」

「いや、むしろお前が食うのが早すぎるんだ!話しながらしっかり食っていたのか!」

「あはは、海賊船暮らしが長いからねぇ〜。うちの船の食事は争奪戦なんだよ。それにカノンのも美味しそうだったからつい手が出ちゃった!」


ごめんね、と悪びれる様子も見せずに謝る(?)アンは俺の皿の上にあるスブラキに熱い視線を送っている。
足りなかったのかと問えば、あと少し食べられそうかなと言う答えが返ってきた。



「能力者になる前はそこまで食べなかったんだけどねー。やっぱいろんな意味で燃焼してるから燃費が悪いんだろうなぁ。」

「まぁ否定は出来んな。だが、今はこのくらいにしておかねば市場で何も食えなくなるぞ?」

「…!そうだね、ごちそうさまでしたっ!」


俺の一言にアンはパンっと手を合わせてご馳走さまと挨拶をすると、テーブルの上に置かれていたグリークコーヒーを飲もうとした。



「ちょっと待て。それを勢い良く飲むと沈澱している粉まで飲んでしまうぞ。それにかなり甘い。」

「え?そうなの?」

「ああ、グリークコーヒーはコーヒーの粉と砂糖を鍋に直接入れて作るのだ。
だから、カップの中の上澄みを飲むんだ。」


俺に言われた通りに飲むとアンはかなり甘いと少し驚いた顔をしていたのだが、それを飲み終えて店を出た後、さらに驚くべき現象に見舞われたのだった。












「いやー、なかなか甘いコーヒーだったなぁ。」

『海軍のコーヒーに比べれば随分マシじゃねェか?』


アンとは別の声がアンの横からして、俺もアンもバッと勢い良くそちらに顔を向けると、そこにはアンと似た雰囲気の男が苦笑を浮かべて立っていた。
しかし、その足元は透けているから彼がこの世の存在ではない事を証明していた。






「…………エ、エース?」

『ああ、アンがこの世界に飛ばされた影響かなんかで、アンと一緒になったはずの俺の魂が一時的に分離しちまったみたいだな。』

「……随分ハッキリ姿が見えてるのに、俺達以外には見えていないのか?」

『あ、こいつぁ挨拶が遅れちまって。俺はエース。コイツの双子の兄貴だ。
アンが昨日から世話になってるみたいで、重ね重ねすまねェな。』


エースは俺に向かってペコリとお辞儀をしたのだが、その角度が昨日のアンと同様に90度と言う所がやはり双子だと感じさせた。



『とりあえずここじゃ少しばかり話しにくいから場所を変えねェか?』


エースからそう提案されてようやくここが市街地だと思い出したカノン達は、市場を見るのは後日にする事にして、聖域に戻ることにした。
また人目につかない場所を探してテレポートし、聖域の外れにある海岸に着いた。
すると、先程まで透けて見えていたエースの体が次第とハッキリしてきて、少し時間が経つと足元も透けずに完全に見えるようになってしまったのだ。




「ど、どう言う事だ!?」

「こいつは俺の推測でしかねェけど、ここの空気か何かが原因みたいだな。
どっちかって言うと、俺の魂がここの空気だか雰囲気だかから力を得たって言うか………まぁ、難しい事は分からねェけどな。」

「もしや、アテナ……女神の小宇宙が!?」

「多分それだと思う。昨日からだからな。
まぁ、こうして実体になったって言っても、やっぱり死んだ事には変わりねェから一時的なんだろうけどな。」



エースはまた苦笑いをしながらそう言うと、アンと同時に海に視線を向けた。









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