カミュの氷の話にアンの目が一瞬だったがキラキラと輝いていた。



「ねぇ、それって私の技なら溶かせるんじゃない?」

「アンの技は炎なのだから溶かす事は恐らくは可能だろう。だが、フリージングコフィンは絶対零度に限りなく近い氷の棺。だからなかなか溶けないとは思うのだが…。」

「そうだよねぇ、確か絶対零度って…ほとんどの物質が動きを止めちゃうんだったっけ?」


アンはカミュと話を続けていたのだが、何かが気になっていたようだったアイオリアがアンに声を掛けた。





「アンは、何種類も技を持っているのか?」

「おっ、よくぞ聞いてくれました!広くて燃え移るものがない場所があれば見せてあげるよ!」


アンの言葉にシオン様は頷いて、再びコロッセオに向かう事を提案し、皆が賛成した。
そんな中、シオン様が突然アンを横抱き(簡単に言えば『お姫様抱っこ』とか言うヤツだ)にしたのだ。


「ちょ、何!?」

「のんびり歩くのもたまには悪くないが、下まで一気に駆け下りるぞ。お前達、ついて参れ!アンもしっかり掴まっておらんと吹き飛ぶぞ!」



シオン様はそう告げると全速力で走り始め、アンの『ぎゃあぁぁー!!』と言う色気の欠片もない叫び声が遠ざかっていった…。
それにしても、なんとも美味しい役割をシオン様に浚われたものだ。
その場にいた誰しもがそう思いつつ、彼らの後を追った。


















─コロッセオ─


「じゃあ、見せるね。みんなは少し離れていた方が安全だと思う。」


アンの言葉通り、俺達はアンから遠ざかって、彼女の技を見せてもらうことにした。
俺達が離れた事を確認すると、アンはグッと腰を落として、拳を炎に変えた。



「火拳!!!!」

ゴウッと言う音と共に、巨大な炎と化した拳を突き出すと、炎はコロッセオの端の方まで伸びた。
アンは体勢を戻すと、俺達の方に向き直ってニカッと笑った。


「今のが火拳(ひけん)って言ってね、本気を出せば船の3隻くらいは破壊できるよ。
他に似たような感じで炎を飛ばして攻撃する陽炎(かげろう)もある。」


アンは実演を交えながら次々と説明していく。


指先から火の玉をまるで銃弾さながらに発射する火弾(ひがん)。

自身の周囲の地面に炎を展開する炎戒(えんかい)と、それを強化させた大炎戒(だいえんかい)。

他にも火柱や、無数の火の玉を作る蛍火(ほたるび)、大炎戒の状態から炎を集め、頭上に太陽のような巨大な火の玉をつくる大炎戒・炎帝(えんてい)。

それから、両腕から二本の火の槍を飛ばす神火 不知火(しんか しらぬい)に、指をクロスさせて十字架型の炎を飛ばすその名の通りの十字火(じゅうじか)。


防御の技としては、炎の壁を作る炎上網(えんじょうもう)と、それよりも更に厚い壁を作る鏡火炎(きょうかえん)。



それらの技を駆使してエースは戦い、彼の死後に運良く自分の前に現れたメラメラの実を食べて兄の技を引き継ぎ、信念のために戦っているんだと笑った。
そしてアンの信念は、白ひげの名に恥じぬように大海賊時代を生き抜く事と、弟が海賊王になるのを見守る事なのだと言い切った。






「では、弟の海賊団に入るつもりだったのか?」


アイオリアがそう問うと、アンは微笑んだまま首を横に振った。



「ううん、アイツには頼もしい仲間達が8人もいるからね。今さら私が入る必要はないよ。」


そんなアンの微笑みは、弟の成長を喜ぶ姉の顔だったが、やはりどこか寂しそうな顔にも見えた。
…ったく、男はそう言う表情に庇護欲を駆られるってのが分かってないのか。
まぁ、この場にいる男でそれを感じているのはまだ少なそうだが。


それにしても、悪事を尽くしたこの俺がこんな年下の娘に心を奪われるとは思わなかったな。








アンと言うこの世界においてイレギュラーな存在のおかげで面白くなりそうな予感がしたのだった。













(アンの技のせいか、何となく暑いのだが……)

(……うむ)

(……なんかごめん)









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