この時期になると、もう5時頃には日が落ち始めて、7時ともなれば運動場も校舎内も真っ暗だ。唯一灯りを溢している職員室がなんだか寂しく映えている。段々目が慣れてきたから、その職員室に借りた鍵をくるくると回す余裕さえ出てきた。目的地到着。鍵穴に銀色のそれを差せば、当たり前のようにカチャン、と腑に落ちた時ような音がした。戸を開けると、昼間見ているのとは全く違う、夜の色に染まった教室の景色が開けた。パチリと乾いた音と共に漏れていく光たち。
なぜか視界に人のようなものを確認した。目に飛び込んできたそれは、少しだけ輪郭が白く光っている。一瞬うっとりしてしまうほどにキレイだ。やべ、俺初めて見た。
「幽霊!」
「違う!足あるでしょ、足!」
足を見せびらかしながら、幽霊はこちらへ駆けてくる。よくよく見ると、同じクラスの女子だった。ジグザグジグザグ。机の合間を縫ってこっちへやって来たと思えば、そのままギュッと抱きつかれた。思考が追いつかない、割に余計なことは考える。取り敢えずその、当たっている胸が気になるんですが。
「はーなーれーろーよー」
「何よう。嬉しいくせにぃ」
以前席が隣だったこいつは色々とやかましい。何度昼寝を邪魔されたことか。とか言いつつ、気になってたりもしてたんだけど。今は別の意味で気になる。
「何でお前こんな時間に教室に居んだよ」
見る見るうちにあいつの目に溜まっていく涙。え、何か泣かすようなこと言ったか?
「聞いてよ泉ー」
「何があったんだ?」
「放課後ね、真面目に教室で勉強してたの。でもさぁ途中で寝ちゃって。気付いたらドアに鍵掛かってて出れなくなってた。鍵掛けた人は、暗かったから私という存在に気付いてなかったんだと思うんだよね。分かるよ。でも酷くない?私すっごい怖かったんだよ?」
真剣に聞いて損した。もしかしたらイジメとか、そんなんかと思ったのに。呆れた顔をしていると、泉も酷いと思うでしょ?と問いただされる。
「つーかさ、後ろのドアは内鍵だろ?」
「私を貶めるかのように壊れているんです。何これ、新手のイジメ?」
「ああ、なるほど。じゃあ携帯で人呼べば良かったじゃん」
「今日の昼休み、電池なくなりました」
おい、こいつどんだけ運悪いの?ふつふつと湧いてくる笑いは堪えようがない。思わず吹き出す。
「ちょっと泉、何笑ってんのよ」
「お前の運の悪さが面白すぎるんだよ」
「酷い。私ほんとに明日まで此処に居なきゃ駄目かと思ったんだからね!?」
「お前、今日の占い絶対最下位だ」
帰るぞ、そう言って教室にまた明日と蓋をする。帰り道でも笑いは収まることを知らない。静かな秋の夜の中で白い息が踊る。横のあいつはさっきから怪訝な目で俺を見ている。笑うな、なんて繰り返しながら。
「でもさ」
「ん?」
「良いことも、あったんだよ」
急に笑顔になるもんだから、思わずどきりと鳴る心臓。
「良いこと?」
「うん。泉が、助けに来てくれた」
考えもしなかった言葉に更に煩く心臓が鳴った。俺が来てくれて良かっただなんて、どんな殺し文句だ。
「あれはたまたま……」
「電気付けた瞬間ぱあっ、て光ってて、おとぎ話の王子様みたいだった!」
きらきら笑う君に落ちた。
発光する生命体
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企画「落日」様へ提出
素敵な企画に参加させていただき、有難うございました!
こんな散文で申し訳ないです…
誰かにキュンとしてもらえたら幸せです
091116 憂