早弁のせいで半分くらいのスペースが空いてしまっている弁当をつつく。
田島と三橋に頼んだクリームパンは無事手に入れられたのだろうか。とにかくこの弁当だけじゃ到底家に帰るまでのエネルギーにはならない。
ちらりと教室の出入口の方に目をやると、さっき浜田を呼んだ女と浜田がまだ喋っていた。
女の方は何やら必死で、反対に浜田は少し眉を下げて困ったような顔をしている。告白されている、のか。
まぁ俺には関係ない、と玉子焼きを口に入れる。染みだしたダシが美味しい。

「ちょ、お前やめろって」

「浜田は黙っときなさい」

さっきまで出入口に居た二人が、俺の机に影を落とす。口ぶりから考えると、この女は先輩のようだ。
浜田がコケにされてるのが面白くて、心の中でザマーミロと呟いた。すると、それを察知したかのように浜田が呆れた表情で俺を見る。
顔をくしゃりと歪めて手を合わせるポーズ。ごめん、か。どうやら俺が心の中で浜田を馬鹿にしたことはバレていなかったらしい。
その時唐突に目の前の先輩が叫ぶ。昼休みのうるさい教室の中でもよく通る声だった。

「泉孝介くん!」

見知らぬ人に急にフルネームを呼ばれたらそりゃあ誰だって驚いてしまうだろう。
現に俺は怪訝な顔をすることしか出来なかった。

「え? 泉孝介くんだよね?」

「みょうじ、面識ない奴に急に名前呼ばれたら泉だってびっくりするだろー」

「あ、そっか」

目まぐるしく繰り広げられる会話に、俺は全く付いていけなくて。まるでテレビから流れてくるセリフを聞き流しているかのような感覚を覚えた。
同時に、浜田と仲が良さそうなこの女は何者なのか、あれこれと記憶の中を探してみるけど、結局答えは見つからない。
まどろっこしいのは好きじゃない。それに、ぐずぐずしていたら弁当とクリームパンを食べる時間がなくなってしまいそうだ。それだけは何としても回避したい。

「浜田。この人誰?」

「えっと、俺の去年の同級生で……」

「みょうじなまえって言います!」

知らない名前だった。去年の同級生ってことはやっぱり二年生、先輩か。
その知らない名前の先輩が俺に何の用があるってんだろう。
告白、って雰囲気でもなさそうだしな。でも多少の期待と自惚れは拭えなくて、柄にもなく緊張してしまったりして。

「何ですか」

とりあえず敬語、だよな。

「うん、泉くん!」

「は、い」

またも名前を叫ばれて、その勢いに気圧されてしまった。
太陽みたいに、にかっと笑うその笑顔を俺はどこかで見たことがある気がした。
机の上に映る影が大きくゆらりと揺れる。廊下の遠くの方から田島らしき大声と、パタパタという二つの足音。あいつら、ちゃんとクリームパン買ってきてくれたんだろうか。
目の前の先輩のせいで何だか疲れてしまって、空腹感に呑まれてしまいそうだ。

「私を甲子園に連れてって!」

「……は?」


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テーマ「人外ファンタジー」
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