話題は白石をきっかけにテニスのことへ。その中で遠山が今も活躍していることだけは私の興味に触れたようで、脳にしっかりと入ってきた。相変わらずテニスばっかやってるんだな、このテニス馬鹿。

「今年受験やろ。テニスばっかしとって勉強サボっとったら行く高校なくなるで」

「あ、ほんまや!」

「はあ。決まってないと思うけど一応聞くわ。志望校どこなん?」

「ああ!それやったらもう決まっとるで!」

「え、意外。どこなん?あ、スポーツ推薦で私立とか?」

「先輩と同じ高校!」

「……やっぱアホ」

不満げな声を出しながら眉間に皺を寄せているのは無視。いちいちリアクションが大きい遠山に付き合う義理などこれっぽっちもないし。
私と同じ高校って、そんな台詞マンガの中でしか聞いたことがない。それに遠山の頭では私の高校に入れるか、かなり怪しい。というか無理なんじゃないだろうか。

「遠山、あんたには難しいんちゃう? ちゃんと地に足つけて考えな」

「ちゃんと考えたもん」

「じゃあ私と同じ高校に行きたい理由はなに?」

「毎日先輩と会いたいから!」

本人を目の前にこうも堂々と不健全な理由を言い放つ遠山に、呆れを通り越し疑問をも感じてしまう。中学の頃から思っていたけれど、どこまでが本気なんだろう。あっちは遊びのつもりだったのにこっちは本気になっていた、なんてとんだお笑い草だ。

「その理由、本気なんやったらほんまのアホやで」

「何でえな」

「うちの高校の偏差値60越えてんねんで」

「偏差値ってなに?」

「はあ!?……もう説教すんのもしんどいから省くわ。とにかくめっちゃ頭ようないと入られへんってこと!私に会いたいからとかいう理由で簡単に入れるような高校ちゃうねん」

「頑張らなアカンってこと?」

「うん、めっちゃな」

途端にパッと明るくなった遠山の顔。そっかー頑張らなアカンのかー、なんて呑気なことまでほざいているし。

「頑張ったら先輩と同じ高校行けんねやんな?」

「う、うん」

「せやったら任しとき!ワイ頑張るのはめっちゃ得意やねん!お守りもあるし!」

「お守り?」

「なんや先輩忘れてもうたんかいな」

大切にしていると言っていたテニスラケットが入っている袋の中をごそごそとあさり始める遠山に、私はハテナマークを浮かべることしか出来なかった。
あった!という言葉と共に出てきたのは真っ赤な……お菓子の包み紙?

「お守りってそれ?」

「おん!先輩ほんまに忘れてもたんか?」

「何のことか全く分からんねんけど」

よくよく見たらそれはキットカットの包み紙だった。そして、その包み紙に設けてあるメッセージを書けるスペース。そこには見覚えのある、というか私の字が並んでいた。

「これ……」

「思い出してくれたん!?これ、あん時からワイの一番のお守りやねん」

嬉しそうな、そして慈しむような、少し落ち着いた声の遠山を見上げた。ばちりと合った視線。初めて、遠山の目をしっかりと見つめた。
中学三年の冬、何てことない普通の日だった。私は推薦入試を受ける友達数人の為にキットカットに応援メッセージを書いていた。そこに遠山がいつものようにひょっこり現れ「ワイにも何かメッセージ書いてぇな」とあまりにもねだるものだから、私は本当に軽い気持ちで、いや、気持ちなんて込めないままに「がんばれ」とぶっきらぼうな四文字を書いたのだ。
中身のチョコレートがなくなって、しわしわになって、少し色が剥げたそれをまだ遠山が持ってくれているなんて、中三の私は想像するはずもなかった。どうせ三日後にはごみ箱の中だろうって、思っていたのに。そんなに大切にしてくれていたなんて、そんなのはずるい。

「何で」

「え?」

「何でまだ持っとんの」

きっと今の私は余裕のない表情をしているんだろう。遠山にそんな表情を見せたことはなかったから、あっちはあっちでびっくりして焦ったような顔をしている。
時折強くなる風が私のスカートと遠山の赤髪を揺らす。冷たいくせに生温さも孕んだ風が私の心臓をぎゅっと掴む。
遠山相手にときめいちゃうとか、私どうしちゃったの。おかしいよ。認めたくないのに、逸る気持ちが押さえきれない。黙れ、落ち着け、私の心臓。

「これ」

ぽつりと遠山がこぼした言葉に、泣きそうな目を精一杯強がらせて見上げた。そこに居たのは遠山だけど、私の知ってる遠山じゃない。
可愛いなんて思ったこともない。鬱陶しいだけだった。そんな遠山がかっこよく見えるとか、どんな魔法。

「これ、先輩がワイにくれた唯一のもんやから」

アホちゃう、って呟いたら遠山はそうかも、なんて言って見馴れていたはずの満面の笑みを惜し気もなく見せたから、私はどうしたらいいか分からなくなった。中学の頃はそんなこと一度も思わなかったのに。今は同じ高校に来てほしいとか、遠山の私に対する思いが本気であってほしいとか思ってしまっている始末。
きっかけ、経過、結果、考察、感想……いや、予感。これからどんどんすきになっていくんだろう、な。


13月



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詰め込みすぎた感がひしひしと……。金ちゃんには一途が似合うと思います。

タイトル、獣

110201
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