世間一般ではアレを可愛いと言うのだそうだ。しかし私の価値観から言わせてもらうと、アレは鬱陶しい以外の何者でもなくて、ましてや可愛いなんて微塵も感じたことがない。
何度あしらっても纏わり付いてくる様子はまるで外灯に集る虫たちのよう。私より低い視点からこちらを見上げる目をしっかりと見つめたことさえまだない。
中学卒業とともにアレから離れることができ、アレのせいで疎かになっていた恋愛というものも経験した。かっこいい男に夢中になったりもしたけれど、それも長くは続かず冷めるのがオチだった。おかげで今は独り身。不思議と焦る気持ちはなく、寧ろしばらく恋愛沙汰は遠慮したいくらい。
サクラが花をつけ、まだ少し寒い風が吹いている。街には甘酸っぱい雰囲気が漂っていて、何とも言えない気持ちになった。

「先輩?」

先輩という代名詞に、耳にしたことがある声質に、いやまさか、と振り向けば一年ほど前まで見飽きるほどに目にしていた赤髪がいた。ただし、あの頃私より低かった視点は今は私のはるか上方にあり、そのせいでアレ、もとい遠山金太郎を見上げる形になってしまう。
少し大人びた雰囲気を纏った遠山に心臓が跳ねる……ことはなかったが、まあ驚いたのは確かである。

「先輩やん!うわあ、めっちゃ久しぶりやー」

前言撤回。あの頃と何一つ変わらないテンションだ。逆にちょっとホッとしたというか、うん。相変わらずボリュームが大きい。

「うわー、会えて嬉しいわあ。これ運命ってやつちゃうん」

「アホちゃう?同じ街に住んどんねやから会うことくらいあるやろ。相変わらず頭弱いな」

「もーその冷たい態度も懐かしいわ!」

下手すると抱きついてきそうな勢いに身構えた。心底嬉しそうに動く口は休まることを知らない。何だか流れで一緒に帰ることになったが、迷惑なこと極まりない。このテンションの遠山があと数十分隣にいるのかと思うと、溜め息が漏れそうになった。
卒業から一年ちょっとが過ぎ、当たり前だが遠山は今中学校三年生。隣でぺちゃくちゃ喋る口が色々な情報を与えてくれるが、生憎聞き流しているので実のところ私の脳に入って来るのはその中のほんの二割程度だ。

「あ、そうや。先輩白石と同じ高校やんなあ。白石元気?」

「ああー元気やで。あいつ顔いいから高校でファンクラブまで作られとってうざいわ」

「白石はテニスも上手いもんな」
「エクスタシーが口癖の男とか絶対嫌やわ、私」

「へへ!よかったー」

「……何が?」

「やって少なくとも白石に先輩取られることはないってことやん。とりあえず安心やわあ」

アホちゃう。本日二度目、というか常々遠山に対して思っている言葉が浮かんだ。知らんやろけどな、私高校入ってから何人かの人と付き合ってんで、と心の中で毒づく。まあ、それを言ったところで何にもならないんだけど。



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