大晦日のせいだろうか、私の隣を通り過ぎていく人たちの速度がいつもより速い。その中で私は一人ゆっくりゆっくり足跡の余韻を味わうように歩く。
みんなもったいないなあ、こんなに綺麗な星空なのにせかせかして。上を見上げる余裕のひとつくらい家族への土産にしていけよ。
少し歩いて、立ち止まる。暗闇の中の公園。ただ単純にわくわくしたから、入ってみた。錆びれたブランコは冷たくて鉄臭かった。

「何しとっと?」

にゅっとした大きい影が私の影を覆う。あー、知り合いに会うんやったらこんなスウェット姿でスーパー行くんやなかった。
おつかいの帰り、と言って手に持っていたビニール袋を揺らしたらがさがさと安っぽい音がした。中身は年越し蕎麦に乗っけるかき揚げ。

「千歳は大晦日にそんな大荷物でどうしたん」

「ああ、テニス部のみんなに誕生日会開いてもらっとったよって」

「え、千歳って大晦日が誕生日なん?」

千歳が微笑んで手に持っていた紙袋を揺らした。中身はきっとテニス部のみんなからのプレゼント。ちらりと見えたグレーの耳らしきものが千歳に生えてそうだと思ってしまって、微笑ましかった。

「そうなんやー、おめでとうございます」

「ありがとうさん」

何となく続かなくなった言葉の代わりに息を吐く。千歳も帰る素振りを見せず、辺りの空気がしんとした。

「隣のブランコ座る?」

「そうするたい」

軋むブランコは190センチを越える千歳には少々窮屈みたいだったけど、そんな不釣り合いな様がやっぱり微笑ましくて、温かい気持ちになる。

「テニス部って仲いいなあ」

「大晦日や言うんにみんな集まってくれて嬉しかったばい」

「プレゼント何貰ったん?」

「みんなでお金出し合ってたいがおっきいトトロのぬいぐるみばくれた」

なるほど、さっきのグレーの耳らしきものはトトロの耳か。ほんとに嬉しそうに紙袋の中を眺める千歳が可愛い。……って、私さっきから千歳のこと微笑ましいとか可愛いとか思いすぎやろ。目の前に居るのは可愛いって形容詞はおおよそ似合わん大男やんか!
冷たい風が肌を掠めて、反射で「さむっ」と呟いた。そして風に乗せられてやってきたのだろうか、ふと心臓の辺りを真綿で締められるような感覚を覚えた。でもその正体がはっきり分からなくて首を傾げたくなる。どっか体の調子でも悪いんかなあ。

「ごめんな、私プレゼントであげれるようなもん今持ってへんわ」

この感覚に、感情に気付かないように、触れないようにわざと明るい声で言い放つ。訳の分からない感情は嫌い。大体は曖昧で一過性で、しょうもなくて気持ち悪いから。消えろ、消えろと願う。

「別に気にすることなか。みょうじのおかげで良い誕生日になったばい」

ほらまた、優しい笑顔に、いつも教室で見てる筈の笑顔に、胸がざわざわと掻き乱される。心臓がどきどき、言うことを聞かない。

「私なんもしてへんやん」

「そげんこつなかよ」

急に立ち上がった千歳を見上げる。私は座ったままだから、いつもより余計に見上げないといけなくて首が痛い。
痛い、痛い、なんか泣きそう?

「冬休み入ってもてみょうじに会えん思とったよって、偶然会えたこつがたいが嬉しか。それだけで十分たい」

その笑顔やめて。風が目に沁みる。かじかむ指先が悲鳴を上げる。寒い、熱い、熔けそう。
私の瞳に薄く浮かんだ涙の理由が分かってしまった。胸がこんなに痛む原因も。だからってどうしたらいいのかなんて分からなくて、私はただ唇を噛みしめて瞼をきつく閉じて、その涙にリミッターを掛ける。溢れてこんとって、千歳を困らせたくない。
ナイロンが擦れるような音がして、大きな手の平が頭に乗る。その手の平を二回ぽんぽんと動かした後、千歳は背を向けて帰って行った。
ほんまあの男は。私の中にこんな気持ちを残して帰っていくなんて、ずるい。自分本位すぎる。
冬休みが明けて三学期、私は同じ空間に居ることに耐えられるんだろうか。……その前に千歳が教室に来るかどうかがまず怪しいけど。

「明日の初詣の願い事いっこ増えてもたわ」


4


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千歳誕生日ほんとにおめでとう!194センチという身長も、もじゃもじゃな髪の毛も、熊本弁も、ジブリ好きなとこも、自由人なとこも、あなたの全部が大好きです。

タイトル、瑞典

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