冬になったんだなあ、と嫌でも実感させられてしまうような寒さ。夏だったらまだまだ明るかった夕方なのに、辺りはもうすっかり夜の面持ちだ。
決して大都会とは言えないこの町では、まだ星が完全に埋もれてしまってはなく、場所によってはすごく綺麗な夜空だって拝めるのだ。
冴えた空気がぴりぴりと神経を刺激するこの感じが何だか心地いい。今日の夜空はいつもより澄み渡っている気がする。昼間にちょっとだけ雨が降ったからだろうか。

「見て、今日は星がすっごく綺麗」

「ほんまやなァ。久しぶりちゃうか、こんないっぱい」

「そうだねえ」

人影のない河原。二人のお決まりの場所だ。この坂に座ってどれだけの時間を一緒に過ごしただろう。どれだけの話をしただろう。どれだけ笑い合ったろう。

「口開いてんで。いつもに増して間抜け面になっとるやないか」

「ちょっとー雰囲気壊さないでよ」

「はは、堪忍堪忍」

真子の乾いた笑い声が宙に響く。その後は二人ともめっきり黙ってしまい、というか星に見入ってしまい、無音のまま時と空気が流れていく。これこそ「をかし」の世界なんじゃないかと、よく分からない悟りが芽生えてしまったり。しばらく夢中になって空を見上げていて、ふと気が付けばまた口がぽかんと開いていた。上を見上げたら自然とこうなってしまうんだろうか、さっき私のことを笑った真子の口だって間抜けに開いていた。

「ほんと綺麗。いつまでも見てたいなあ」

「あんま遅なったら親御さん心配するやろ」

「そうだよね」

名残惜しさが胸にじゅわああって染みていった。こんなに綺麗な空を私は一緒にあと何回目に出来るんだろう。その時に真子は隣に居てくれるのかな。

「……あっ」

「ちょ、アホ!」

映る景色が急転した。空を見上げすぎてバランスを崩した体は、そのまま倒れるかと思いきや、咄嗟に私を支えようとした真子をも巻き込んで倒れてしまった。隕石みたいに勢いよく仲良く落下、なんて可愛らしいものじゃないけど。

「ご、ごめん!」

「ええからはよどけ! 重いねん!」

「ええー、酷い」

からかい半分でそのまま体を翻し、真子に抱きつく。「うえっ」という失礼な声が聞こえた気がしたが、構うものか。大体この男は細っこい体をしているくせにちゃんと「男」なのだ。

「幸せだあ」

「……あんま可愛いことすんなや」

「何で?」

「帰したくなくなってまうやろ」

そう言って私ごと上体を起こした真子は、台詞通り余裕がなさそうで、少しドキッとしてしまった。不覚!
藍色の空の下、私たちはいつも、遠い遠いところにある星ばかり眺めているけれど、地上にだって星はある。真子の肩越しに見えるスーパーの明かりだって、数十メートル先にぽつんと立っている外灯だって、今視界で揺れる金髪だってそう。身近にあるそんな星たちに気付けるようになったのも、多分真子の人間性に感化されたから。つまりね、私は真子と出会わなければこんな小さな幸せに気付けるような人間にはなれなかったんだよ。
真子が居なければ生きていけないなんて馬鹿っぽいことは言わないけれど、真子が居なければ今の私が存在していないだろうというのは事実。このまま溺れていくつもりはないけれど、簡単に離れられないようなところまできちゃってるのも分かってる。
もう一度幸せ、と独り言をこぼしたら真子と目が合って、照れ臭そうに二人で笑った。私の頬を包んでくれている両の手が温かくて、周りの空気の冷たさとの差で私という人間が曇ってしまいそうになった。



流星ライナーに乗って


*****
星があまりに綺麗だったので書きたくなった。

タイトル、babe

101211
101221 加筆訂正
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