「みょうじ、ノート見せて」

「嫌よ、彼女に見せてもらえば良いじゃない。最近できたばかりの可愛い彼女に!」

「いや、彼女は違うクラスだし。ていうか何でお前そんなにひがんでんの?」

「ひがんでません」

「あ、拗ねてんのか」

「拗ねるか、阿呆!」

嘘、拗ねてるの。今の私の気持ちをありきたりな比喩で表すと、心に雨が降ってるって感じかな。誰かに言ったら必ず馬鹿にされそうね。でも、本当なんだから仕方がない。だって榛名は光った携帯を見て口角上げてにやにや。今夜辺り、大雨警報覚悟です。哀しいったらありゃしない。

「ねえ榛名」

「ん、何だよ?」

一瞬だけこっちを見た。携帯から目を離してくれない哀しさよりも目が合ったその一瞬の嬉しさが勝ってしまうのだから、私もしょうもない、ただの女だ。 

「ノート見してあげるからさ、私の疑問に答えてくれる?」

「まじで!?あ、でも俺数学とか分かんねえからな」

「ひとつめ。何で榛名はこの世に一人しか居ないの?」

「は?どうしたんだよ急に。そりゃ一人しか居ないだろ。オレは、オレ」

さすが俺様ピッチャー。その言葉がよく似合う。そうよね、榛名が二人なんて、それはそれで嫌かもしれない。

「ふたつめ。何で榛名の一番はあの子なの?」

榛名は質問には答えない。質問の意図に気付いたのか、ひたすら困ったような顔をして視線を私からずらす。こんなこと望んでた訳じゃないのに。何でこんな質問なんかしたんだろう。せめて今のまま、休み時間になれば喋るような関係で居たかったのに、な。馬鹿だよ私。

「みっつめ。どうして私の心の空白部分を埋めれるのは榛名しか居ないの?」

ほらまた困った顔させて、変に意識させて。何より榛名を諦められない私、馬鹿だよ。

ノートをひょいと渡したら、榛名はさんきゅ、と小さく言って前を向いた。ああどこかの誰か、著名な学者さん、歩き始めたばかりの赤ん坊、教えてください、この難題の答えとやらを。じゃないと私、ここから動けそうにもありません。  


傘も持たずに雨の中、迎えに来てくれるヒーローも不在なのです 


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あれ、おお振り夢第一号は泉って決めてたのに←
しかもシリアス…

091109
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