不満がないと言ったらきっと嘘になる。内心むくれた思いでいつものコンビニに入っていく泉の後姿にため息をひとつ落とした。
たとえ半日だとしても、孝介と一緒に遊べるなんてめずらしいことだ。というか、付き合いだしてから初めてかもしれない。毎日学校で会って、メールも電話もして、たまに家に遊びに行ってそれで充分なんて思っていたって実際は現金なものだ。お買い物とか、映画とか、恋人らしいことをしてみたかったりもしたわけで。
「とりあえずコンビニ行こーぜ」
孝介にどこに行きたいなんて聞いた私が悪い。遊びに行こうって行っておかなかった私が悪かったよ。部活上がりの孝介には反論もできなくて、多分家に行く気満々の孝介の自転車の後ろに乗ったのは5分前のことである。
「何買う?」
「おでん食いたい。あとなんか甘いもん」
「あー、私シュークリーム食べたい」
むくれた私はろくに選ぶ気もなく紙パックのコーナーやらお菓子のコーナーやらををふらふらと眺める。そういえば、今日お金あったっけと思って財布を開けた瞬間、後ろから急に名前を呼ばれて驚いた私は財布を落としてしまった。大げさに音を立てて転がっていく小銭を眺めながら、孝介は「あーあ」なんてめんどくさそうな顔をする。
「孝介のせいじゃん!」
「はあ?落としたのお前だろ」
「急に声かけるから」
「俺のせいかよ」
しぶしぶと落ちた小銭とカードを拾いながら、孝介と言い合う。もう、なんでこんなことになるの。たいしたこともないのに鼻の奥がつんとして、あわてて涙を食い止めるように目ぎゅっと力をいれた。顔を見られないように下を向いて小銭を拾い集める。
「…こうすけー」
棚の隙間に入った小銭に手が届かなくて、カードを拾い集め終わった孝介に助けを求める。すると隣にしゃがみ込んだ孝介の顔が思いがけず近くに来て、思わずどきりと心臓がなった。
「どれ」
「あれ、奥の方の」
「あんなん届かねーって」
そんなことを言いつつ手を伸ばす孝介。私も奥を覗こうと思って首を伸ばした瞬間、孝介が振り返る。孝介の黒い目とぱちりと繋がって、その前髪が顔にあたったと思えば額がこつん、とぶつかった。
「…」
お互いの目を覗き合うと、どちらからともなく笑いがこぼれた。私の額をかるく叩いて「ばーか」とつぶやく孝介に、心臓がまたきゅんとなる。
「ほら」
立ち上がった孝介に差し出された手をきゅっとつかむ。見上げたそのぶっきらぼうな表情も手から伝わる体温も、好きだと思った。ふとその左手から提がったビニール袋から2つのシュークリームが見えて、ついにやけてしまった私はやっぱり現金みたいです。
スピカ
に
瞬落
100926
結局泉にかっこいいこと言わせられなかった…><ごめんね。気づいたらこんな話になっとりました。リクエストありがとうございました!
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