ぷーん、という不快な音が静かな暗闇に響く。足、二ヶ所くらい刺されてるな。すごく痒い。
耳元にやってきた刺客を手でぶんぶんと払う。居なくなったかと思えばそれは一時的で、また私の近くに寄って来る。質の悪いナンパみたい。生憎、私はそんな軽い女じゃないのよ。
起きるのも面倒だけれど、このままあの不快な音を聞き続けるのも御免被る。
それに、このままだと隣で気持ちよさそうに寝ている孝介を起こしてしまいそうな気もするので、私は電子蚊取りを持って来ることにし、恐る恐る布団を出た。
暗闇の中、手探りでコンセントを探すのはなかなか難しい。やっとのことで電子蚊取りが動き出す。眠い中ここまでしたんだ。しっかり働いてもらわなければ。
また恐る恐る布団の中に入り込む。すると孝介の腕が伸びてきて、私は必然的にその胸に顔を埋めることになった。

「孝介?」

「どこ行ってたんだよ」

不機嫌そうな、拗ねているような声。私がごそごそしたから、起こしてしまったのだろうか。

「蚊がうっとうしかったから電子蚊取り出してきたの。孝介、どうしたの?」

「特に何かあったって訳じゃねーんだけど」

「うん」

「ちょっと、寂しかっただけ」

滅多に見ることが出来ない孝介の弱ってる姿。言ったら絶対怒るだろうけど、可愛いなあ。ぎゅっと、私を抱きしめる力が強くなる。そういうとこも。
不安なら、寂しいなら、どうか私にすがってほしい。孝介の拠り所であれることは、私にとってとてもとても幸せなことだから。なんて、不謹慎なのかもしれないけれど。

「急に隣からっぽだったから」

「ごめんごめん」

「情けない男だって思うかもしんねえけど」

「孝介はかっこいいよ、すごく」

「ちゃんと隣に居ろよ」

「うん」


落下傘と瞼


*****
弱った泉が書きたかったのです。たまに、すごくたまに、不器用な甘えん坊だといい。
お借りしたタイトルがとても気に入ってしまいました。

タイトル、あもれ

100823
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