金髪おかっぱ頭の変な転校生に話し掛けられたきっかけは、本当に小さなことだった。ただ少しドラマチックである気もしないではない。
最近ハマっているジャズの曲を口ずさみながら黒板を消していた時のこと。ふと気が付くと、その転校生は教卓に肘をつきながら私の方を見ていた。そしてにやりと口元をゆるませ、そのジャズの曲名を告げたのだ。
それからというもの、私とその転校生はよく話す間柄になった。ジャズのことも、愚痴も、色々。
おかげで良いジャズの曲もたくさん知れた。でも、肝心の転校生自身についてはあまり知らないままだ。聞いてもはぐらかされてしまうのが常で、私もあまり深く突っ込めずにいる。

「平子」

「なんや遅かったなァ」

「ごめんね。掃除長引いちゃったの」

二人きりの教室。普段は喧騒に包まれているだけに、嫌に静かで歯痒い。
男子と二人きりの放課後の教室というものを経験したことのない私は何となく落ち着かなくて、無駄で不自然な動きが多くなる。

「掃除当番か。人間っちゅーのは難儀なもんやな」

まるで自分は人間じゃないみたいな言い方に、私はごそごそ動くことを止めた。
人間じゃないみたい。そう感じることは前にも何度かあった。平子の発言とか、雰囲気とか、そういうものに、妙なよそよそしさを感じるのだ。気のせいだとは思うけれど。
そしてこの平子に惹かれていく気持ちも、気のせいであればどんなに良かったか。
こんな女々しい気持ちは初めてで、どう対応していいのかが分からない。こんなの私じゃないみたいで、それで余計に落ち着かないのだ。
これが俗に言う「好き」という気持ちなら、そこら辺の女の子にでも解決策を聞いてみれば良いのだろうか。
そしたら、どうなるんだろう。進んでいくことが怖い、なんて。

「どうかしたんか?」

「え」

「ぼけっとしとるけど」

「いや、何でもない。それより言ってたやつ」

鞄の中をごそごそ漁る。ぐちゃぐちゃなこの鞄の中はいつか改善しなければならないと思っていることの一つだ。
はい、これ。そう言って平子に手渡した一枚のCD。Make Her Mineと私の不細工な筆跡で書かれた、ジャズの名曲だ。
昨日平子に一枚やいてくれと頼まれたものだった。

「おー、ありがとうな」

「かっこいーよ」

「俺がか?」

「違う! その曲が!」

もう少し、もう少し可愛い反応が出来たなら。
年齢イコール彼氏いない暦の私には、可愛い言動の一つも出来ない。大体、可愛い言動とはどういうものなのかさえ分からないのだから。

「また感想聞かせてね」

「おう。じゃあまた明日な」

そう言って、すれ違いざまにぐしゃりと私の髪を撫でてから帰る。いつもこうだ。平子はいつも、こうやって私をどきどきさせて帰って行くんだ。
ずるい。

「平子!」

平子を追いかけて、廊下に出る。私に名を呼ばれ、立ち止まった平子の金髪が揺れた。
西日が射し込む廊下は、じわじわあつい。これから私は何をしようとしてるんだろう。
あついのは、体内?

「恋愛に免疫のない女がそれをされるとどうなっちゃうか知ってる? 好きに、なっちゃうんだよ」

それっていうのは、髪を撫でる行為のこと。きっと平子にもそれは分かっているだろう。
それより、何でこんなこと言っちゃったんだろう。こんなのアレじゃない。告白じみてるじゃない。
進むのが怖いだなんて言ってたくせに、私の心臓。軋む軋む。

「……あァ知っとる。それが狙いやからな」

頭の後ろに平子の手が回ってきて、その胸に抱き寄せられるような形になる。思わず平子のカッターを掴んだ。
弾む弾む、私の心臓。ほんと単純。
気持ちのいい風が吹いても冷めることのない熱が。

Make
Her
Mine



*****
Make Her Mine すごく良い曲で、大好きです。彼女を私のものにする……大胆すぎるタイトルですね。平子さんがジャズを聞いてるのを漫画で読んだ瞬間から書きたかったネタ。

100821
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