夜空には花火。一秒間に地球を七周するという速度で目の前に広がる鮮やかな色。そして対照的な重々しい音が続く。 「花火も進化してるんだね」 そう彼女は言ったけど、特にどこが変わったのかが俺には分からない。 俺の手にはカラアゲ。彼女の手にはかき氷。そんな腹を満たしそうにないものよく買うよな。 そう言うと、美味しいからいいのと一蹴されてしまった。 部活終わりの空腹感は尋常ではなくて、がぶりとカラアゲに噛み付いた。五百円しただけあって、そこそこ美味しい。 「全く泉は……花より団子だね」 「こっちはハードな練習こなした後で超腹ペコなんだよ」 「美味しい?」 「そこそこ……いる?」 「その食べさし、ちょうだい」 こういう奴だって分かってるからもう躊躇はしないけど、やっぱり照れてしまう。 あーん、と大きな口を開けている彼女の鼻をつまんでやった。いわゆる照れ隠し、ってやつだ。 「ぼったくりのくせに美味しいね」 「だな」 花火もそろそろフィナーレのようで、どんどんと騒がしい黒い空は、色とりどりの光を映すのに忙しそうだ。 最後の火の粉が消える瞬間は、少し寂しかった。 「花火終わったし、移動する?」 「とりあえず人混み抜けようぜ」 人の合間を縫って前へ進む。こういう歩幅が小さくなってしまう状況は、何だか窮屈で好きじゃない。 ふと、前を歩くカップルの手を繋ぐ姿に目が行った。辺りを見渡してみると、ほとんどのカップルは手を繋いでいた。 恥じらうように軽く結ばれた手。がっちりと組まれた手。強引に引っ張るように繋がれた手。 ああ俺って、素直じゃねー分損してるな。つかこの人混みの中を一人で先に進んでしまってるって、カレシとしてどうなんだ? 悶々と思考を重ねていたその時、背負っていたリュックが後方に引っ張られた。 振り替えると、リュックに手を掛けた彼女がにこりと笑いながら、迷子防止、と呟く。 口から覗いた彼女の舌は、かき氷のシロップのせいで青くなっていた。 こんな距離感も嫌いではないけど、彼女の姿が可愛らしくて、リュックを掴んでいるその手を無理矢理握った。 ぽかんとした表情の彼女は滅多に見ることが出来ないから、それがまた俺の心を弾ませる。 「こっちの方が、確実」 「……そうだね。手繋ぐのっていいね」 「そうか?」 「うん、結構好き。また今度もしてよ」 そうか?なんて無愛想なことを言ってしまったけど、俺も手を繋ぐという行為は好きだ。妙に心地よく伝わってくる鼓動が良いのかもしれない。 繋がれた部分からの熱が、汗に変わっていった。 炭酸越しに恋愛中だとか ***** 夏祭りはキュンな要素がたくさんあると思います。 こういう素朴なほのぼのとした二人を書くのは個人的に好きです。 タイトル、あもれ 100808 |