せっかくの夏祭りやいうのに雨が降ってきよった。ま、行く相手も居らん俺には関係ないけどな。
コンビニの袋をぷらぷらさせながら歩く。すれ違う浴衣を着た女の子たちを無意識に目で追っとるとか、俺はどんだけあいつを意識しとんねん。
祭りから帰る人の波とは反対方向に進んでいるからか、よく人と肩をぶつける。痛いなァ。逆流する俺は意地が悪いのかと考えながらもずかずか進む足は止めない。
雨のせいで視界は白く霞む。けれど見間違うはずはない。暗闇に溶け込んでしまいそうな藍色の浴衣を着たあいつを。
頬を伝うそれは雨かもしれんが。あいつの方に向かおうとする足を止める方法を俺は知らん。

「みょうじ」

「ひ、らこ?」

「彼氏はどうしたんや」

「来れないって。ていうか」

言葉を濁らせて、目を伏せて。状況を理解するには十分だった。
こいつの彼氏ぶっとばしたいわ、まじで。

「取り敢えずそんな濡れたままやったら風邪引くわ」

着ていたジャケットをみょうじの肩に掛けると、微かに触れた肌の冷たさに驚いた。綺麗にセットしてきたんやろう髪も濡れて崩れまくりやし。

「平子、嘲笑ってよ」

「あほか」

「平子はこういう時だけ優しいね」

「いっつも優しいやろ」

えー、と微笑むみょうじの目尻から涙が落ちる。慌てて拭うけれど止まることのない哀しみを目の当たりにしても、なす術が、掛ける言葉が見つからん。達者な口は、動いてほしいときに動いてくれない。

「私のせいで雰囲気重くなっちゃったね。ごめんね」

「そんなん気にしてへん。泣いとるお前の傍に居ることは俺にとって何も苦痛やない。まあ出来れば笑っとる隣に居りたいけどな」

卑怯な言葉がするりと口から出た。みょうじが弱っとる時にこんなつけこむようなこと。下心ありまくりやないか。俺ってこんな余裕なかったんか?

「ありがと」

無理しているのは分かっているのに、やっぱり笑った顔を可愛いと思ってしまう。
もうこうなったら俺はとことん卑怯な奴になってやろう。
そう思って、抱きしめた。

「平子!」

「今から俺、お前の彼氏ぶっとばしてくるわ」

「別にいいよ。平子には関係、」

「関係ない?」

「……平子が悪役になる必要なんてないよ」

「俺が勝手にむかついとるだけやから」

「で、も」

「まだ彼氏のこと好きなんは分かっとる。俺が身勝手で酷なこと言いよるのも」

でもなあ、疼く拳の行き場がないねん。
いつの間にか止んだ雨。雨上がりの独特の匂いが鼻孔をくすぐる。雨とシンクロするように人の波も収まっていた。
静かな夜は俺の煩い鼓動を浮き彫りにしそうで不意に怖くなった。

「平子っ」

「ごめんちょっと黙って」

そうやってくちびるを塞ぐ。
まぶたの裏では、昔見た映画の卑怯者の末路がぐるぐる回っていたなんて、認めるべきやないやろ。


それは弱い証拠だと、子どもは唄う



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平子さん好きすぎて書いてしまいました。原作をしっかりと読んでいないので、口調など間違っていたらすいません。

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