最近不自然に多くなった、行き先の分からない外出。帰って来た時の機嫌の良さと、遠方への仕事を与えられた時の機嫌の悪さ。あの子は気付いてないのかしら、はたまた隠す気もないのか。 「エンヴィー」 「何?おばさん」 「そんなこと言ってるといつか死ぬわよ」 「はいはい、お姉サマ」 わざとらしい返事の裏には苛つき。そういうとこが、分かりやすいのよ。今日もまた、あの子のところへ行くんでしょう? 「エンヴィー」 急に変わった雰囲気に、エンヴィーも何かを感じたようだ。キッとした視線でこちらを見てくる。そして、僕もう行くからと言って背中を向けた。黒い髪がサラサラ揺れる。 「待ちなさい」 「……好きなんだよ」 「でもその想いは叶わないわ。彼女は必ず先に死ぬ」 「知ってるよ」 「本気で入れ込れこまないで。私たちはこれから人間を」 「知ってるよ!」 いつもより少し多い水気を目に浮かべ、それとは対称的な怒った顔をする。哀れで仕方がない。 「分かってるなら早く彼女との縁を切りなさい」 「そうしたいよ。でも」 その先の言葉が空気を震わせることはなかった。エンヴィーの頭の中だけでそれは反響しているんだろう。また、キッと睨み付けられた。 「仕事の為に男を愛してるフリして、本当に誰かを愛したことないラストには分からないよ」 最後の方はほとんど泣きそうな声だった。再び背を向けて地上に向かうエンヴィーの名を呼んだけれど、振り向くことはなかった。先程までとはまた少し違う静かな空気と、冷たさを増したコンクリートは切なく私の胸を締め付ける。試しに一度、心臓を抉ってみたけれど、変わりはない。ウロボロスの入れ墨を撫でれば、何とも言えない複雑な思いが込み上げてきた。 「本気で愛した人が居たから言ってるんじゃない」 叶わないと知った、 とある普通の日 ***** エンビが可愛いよう 091107 |