寝ていたら気付かないだろうという程度の弱々しいノックをする。
夜中の一時。寝ていてほしくないけど、寝ていてほしい。
矛盾で更に胸がずきずき痛む。部屋の中でイスが音を立てるのが聞こえて、扉が開いた。

「エ、ド」

「どうかしたのか」

ぽつぽつと、単語にさえならない言葉を発していると、ちょっとだけ笑われて、それから部屋の中に誘われた。
殺風景な部屋の一ヶ所だけに明かりが点いていて、それがまた私の痛いところを抉る。
少々固そうなベッドに座るエド。隣に誘われたけど、何だか足が重たくってその場に立ち尽くす。

「今日アルはいないの?」

「今軍にお使いに行ってくれてる」

「こんな、夜中に?」

「大佐も酷いよな」

エガオ。大好きな人が、大好きな表情してるのに、まだ私の痛いところは埋まらない。
何を、つっぱっているんだ。さっさと痛みなんて忘れちゃえ。

「で? お前はどうした?」

「私、は」

言ってしまおうか。泣いてしまおうか。
けど、よく泣くあの娘みたいな悲劇のヒロインになりたくはない。そんな演技っぽいことは嫌いだもの。

「特に用なんてないよ。ただちょっと……エドの顔が見たかったの」

奥歯を噛みしめていないと、感情も涙も色んなものがこぼれてしまうから、いつもより早口で、私は嘘を吐く。

「俺はなまえのそんなに弱ってる顔、見たくなかった」

「別に大丈夫だよ……何も、ないよ」

「どうしたんだ?」

まっすぐこちらに向けられた金色の瞳。
何もないって言ってるんだからそれ以上問い詰めないでよ。それがいい男ってもんでしょう?
黙って頭の一つでも撫でてよ。キスでごまかしてよ。
本当はこの痛みを言ってしまいたいんだ。泣いてしまいたいんだ。だから。
そんな気持ちを見透かしてるみたいな反応、止めてよ。
そんなに真剣な顔されたらさぁ、今の私の姿だってどこかの安っぽいロマンスに出てくる悲劇のヒロインみたいだとか、考えちゃうじゃない。
泣くも強がるも、どっちにしたって同じこと。結局私は悲劇のヒロインぶりたいのよね。認めたくないけど。
可哀想って同情してほしくて、一緒に憤って欲しくて。つまり、エドと同じ感情を共有したいの。
どろどろぐちゃぐちゃ醜い感情。人間なんて、みんなそんなものでしょう、ねえ?
エドはそれさえ、分かってしまってるのかなあ。

「ちょっと、辛いことがあってね」

「うん。俺に言えることなら、聞くよ」

あのね、聞いて。
辛いことがあったの。
悲しいの、悔しいの。
何だか腹もたってね。
無性に泣きたくて。
誰かにすがりたくて仕方なかったの。

世界は、無条件に優しくはないけれど
 








嗚咽混じりの声は、聞き取れましたか?
醜い人間でごめんなさい。
明日からまた頑張るから、ちょっとだけ隣で休んでもいいですか?



*****
久しぶりの鋼夢。
やっぱりエドを書くときはシリアスになりがちだなあ。何故だろう?
この前実際に私が経験した心情を形にしてみたくて書きました。あまり上手く書くことは出来なかったけど……。

100625
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