隣にいる孝介からもう一枚ティッシュを手渡される。目元を押さえれば染みていく水分。 「お前泣きすぎ」 「だって! あの二人が結局幸せになれてっ……」 はいはいと適当に受け流す孝介。 そんな私たちを他所に、今流行りの歌手のラブソングに合わせ、画面の中のカップルはキスをかましている。 ふと、高校時代はドラマのキスシーンを二人で見ることさえ恥ずかしかったのを思い出した。 あの頃の私たちは何て初々しくて可愛いんだろう! 私たちが今まで見ていたのは、まあありふれた恋愛ものの映画。 高校からの付き合いだから孝介はこういう映画が好きじゃないことは知っている。今だって、涙ひとつ落としやしないで、冷めた目でDVDをケースにしまってるしさ。 嫌いになったわけでもなんでもないけど、思わずため息が出てしまった。 「孝介にはさ、ロマンチックって概念がないよね」 「はあ?」 「女の子はね、時には甘いセリフの一つや二つくらい言ってほしい生き物なの」 「へー」 「へー、じゃなくて! さっきの映画の主人公が言ってたみたいな甘いセリフ言えないの?」 「えー……このケーキ甘すぎ」 「そういうんじゃなくて!」 私の言っていることはそんなんじゃないって、きっと孝介は分かっているのに。どこまでも意地が悪い。 拗ねたような素振りで机に放置されたままのミルクティーに口をつけた。冷めてて不味いったらありゃしない。 一気に飲み干すと、底の方に溜まった甘ったるさに顔が歪んだ。 孝介とは大違い、なんて。 「なまえ」 「なにー」 「好きだ」 え、なに、急に。……さっき私が拗ねたフリしたから? 「好きだ」 「え、な……」 「一生離したくないし、もっと傍で笑ってたいし、キスもしたいし、」 こんなにストレートな言葉をくれる孝介は久しぶりで、恥ずかしさに顔はどんどん赤くなって俯いてくる。 内側からジンジンと熱が広がっていく。 「愛して、」 「もういいよ!」 顔を手で覆い、堪らず叫んだ。 確かに甘いセリフを言ってほしいなんてお願いしたのは私だけど。 いざ言葉を並べられると、耐えられなかったのは私の方。 「ばーか。身の程知らずめ」 そう言って孝介はケラケラと笑う。まるでこの展開を予想してたみたいに。 悔しいなあ。結局私は、また孝介の策に嵌まってしまったという訳だ。 自分で仕掛けておきながら……無様ね。 「で? 返事は?」 「何の」 「さっきの」 「……好きだよ」 「当たり前だけどな」 「なにそれ」 砂糖74.5杯分の、 ***** 6月19日はロマンチックの日らしいので。 以前書きかけていたものを加筆修正したものですが。 100619 |