任務上がりの彼の部屋に勝手にお邪魔して、綺麗な顔で眠る隣に潜り込んだ。
よっぽど疲れているのか、いつもならバチリと開く瞼も、今は開かない。
また朝になれば出掛けていくんだろう。そして私は彼を待つことしか出来ない。命を掛けるその戦場に、私は行けない。
あと五分で彼はまた年を重ねる。それは生きているからこその現象で、死ぬことに比べたら老いていくことなんて何ともないじゃないかなんて私は思ったりするのだけれど。
だって誕生日を迎えることは、つまり生を重ねる、ってことでしょう?

時計の針が十二という文字に重なって、誕生日おめでとうと静かに呟く。
今年も、どうか生きててください。
なんて哀しい願いごと。いつになれば、もっと幸せな願いを掛けられる世界になるのだろう。
涙を閉じ込めるように、目を瞑った。

気付けば朝。隣にはまだ彼が居てくれた。
ふと、腕にくすぐったさを感じた。いつの間にかその綺麗な黒髪を敷いてしまっていたようだ。
そっと上体を起こし、白いシーツに散らばった髪を出来るだけ優しく触ってみる。

「おい」

「あ……起こしちゃった?」

「いや、いい」

「ねえ神田」

「なんだ?」

「誕生日おめでとう」

下から見上げられるのは割と新鮮な感覚で、どこか冷たくて、でもとても温かい空間がここにある。

「その言葉は二回目だな」

「夜中、起きてたの?」

「俺が気配に気付かない筈ないだろ」

「そっかあ。ありがとう、黙って傍に居させてくれて」

「誕生日だからな、特別だ」

そう言いながら彼は起きて、団服に袖を通す。 
さっきまで散らばってた髪たちも、紐でひとつに結わえられて背中で揺れる。
いってらっしゃい、と後ろ姿に話し掛けると、早足気味でベッドの方へと歩み寄ってきた彼。
瞬間唇が重なって、私は閉じ込めた筈の涙を堪えきれなくて。
傍に居てほしいのは俺の方かもしれねえ。
わずか数センチの距離で彼のそれが紡いだ言葉を、哀歌に乗せて反芻してみたりするの。


朝焼けを眺めてみたけれど、目に映ったのは限りない青の世界だった
(かなしいのに、うれしいの)



*****
長い黒髪を寝てるときに敷いちゃうってネタを書きたかったのです。
エンビか、ジャブラかで書こうと思ってたら偶然にも神田の誕生日が明日に迫っていたので、神田。ちなみに書くのは初めて。
ちょうどでぐれ最新刊読んだばっかで、少し神田ブームな私です。

100606 KANDA BIRTHDAY
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