▼ ソノリテの続きです
▼ 阿部視点です
 
 
 
 
 
「阿部か!?」
 
あーそうですよ、阿部隆也ですよ。ちなみに今真夜中の2時ですよ。よい子はオヤスミのお時間ですよ。つーかよい子じゃなくてもほとんどの奴もう寝てるって。
 
「なに」
 
「機嫌悪いなー」
 
「お前は機嫌がすこぶる良いみたいだな」
 
皮肉たっぷりのセリフも今の泉には通用しないようだ。電話越しにでも分かる、あいつのニヤけ顔。
こんなこと滅多にない。転じて言えばよっぽど嬉しいことがあったってことだ。
分かりやすい奴。
 
「オレ父親になるんだ!」
 
ちょっとびっくりは、した。そしてひとつの仮説が頭に浮かぶ。
……きっとこいつはこんな喜んでる姿とかを奥さんであるみょうじ(今は泉、か)には見せていない。
みょうじは篠岡と同じくマネージャーをしてくれていた。泉と付き合い始めたのは二年生の終わりくらいからだったと思う。全くよく続くよな。
まあその頃からだけど、泉はみょうじの前ではやたらとかっこつける。
今回の妊娠のことだって、みょうじの前ではクールな顔で居たんだろう、とオレは思う。
でも内心すごい嬉しいから、こうやってみょうじが寝入ってる真夜中とかにオレに電話してくんだろうな。
ほんとバカな奴。
 
「おめでとう」
 
「もーやっべー! 男がいいな、キャッチボールとかしてみてえ!」
 
「ありきたりな」
 
「オレの小さい頃使ってたグローブまだ実家にあるっけな」
 
オレの話なんて聞いちゃいねえ。ほんと、浮かれちまって。
恥ずかしい奴。
 
「お前その喜び様ちゃんとみょうじにも見せてやれよ」






泉のおめでたい電話から2週間後、偶然スーパーでみょうじと出会った。
ちなみにあの吉報は泉からのメールによって、元西浦野球部全員に知れ渡っていた。
 
「阿部じゃん」
 
「おーみょうじ、子どもおめでとう」
 
「はは! ありがとう。今は泉、だけどね」
 
屈託なく笑うみょうじを見て、オレは心のどこかで安心する。上手くやれてんだろうな、泉と。
 
「泉は親バカになるだろうな」
 
「うん、ぽいね」
 
「電話でアイツすげー喜んでたんだぜ」
 
「西浦のみんなにもう知れ渡ってるでしょう?」
 
「なんで」
 
「泉言いふらしてそうだもん」
 
「さすがだな」
 
「ご迷惑お掛けしました」
 
幸せそうなその笑顔は、高校時代の輝きを未だに失っていなくて。
羨ましいと、素直に思った。
 
「じゃあそろそろ帰ろうかな」
 
「おう、気をつけてな」
 
「うん。阿部も彼女さんとお幸せにね!」
 
手を振る影で、オレは少し泣きたくなった。それというのも、彼女とはついこないだ、別れたからだ。
全く、シアワセな夫婦だよ。



理不尽の裏表



*****
阿部が不憫すぎますね。
泉は一見クールだけど、裏ですごい喜んだりしてそう。でもそれを彼女さんには見透かされてそうだなあ、と思います。

100605
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