▼ 未来のお話 仕事の打ち合わせで偶然アイツに会った。いつぶり、だろう。 あのサラサラした長い髪はやっぱりまだサラサラで、その髪に指を通していた頃を思い出した。遥か昔の、おとぎ話みたいな時間を。 「久しぶりだな」 「ええ。元気だった?」 「まぁ大きな病気とか怪我はなかったな」 「それは良かった」 彼女のふわりとした笑顔も、やはりあの頃と変わってなくて、安心を覚えるのと同時に、なんだか不意に泣きそうになってしまった。 そのせいで仕事の打ち合わせの内容もほとんど耳に入ってこない。あー、また上司に怒られるな。 「じゃあ、何かあったら私の携帯に電話して」 名刺の裏に手慣れた様子で番号を書く彼女。昔とは違う、キャリアウーマンみたいな雰囲気に少しどきり。 今更、馬鹿かオレは。 「……お前の番号なら、覚えてる」 「変わったの」 冷たくあしらわれた悲しさじゃない。気付いてしまった悲しさだと思う。 ああそうか、ほんとに今更なんだ。 分かっていた筈なのに、さっきの一言で思い知らされた気がした。 アドレス帳の中に静かにうずくまる彼女の番号も、彼女から貰ったこのネクタイピンも、全部。 彼女にとってはもう過去の無意味なものでしかないのだ。 名刺がスッと机の上を滑る。無機質なそれが、妙に哀しく、愛しい。 だから、指でそれを弾いてみたりするんだ。 君と居た場所は鮮明に色を潜めるだけ だから、泣きそうだなんて馬鹿なことは止めないか。 ***** ファン.タス.ティック.4って映画に、 「君の番号なら覚えてる」「変わったの」 って台詞のやり取りがあって、その台詞が使いたくて書きました。 すごい好きな台詞です。 タイトル、あもれ 100529 |