今は物理の時間。先生がとても面白い人だから、自然と耳がそちらを向く。雑談を交えながらの今日の講義は、浮力についてだ。空気の力は君たちが思っている以上にすごいんだぞなんて言われて、私は少し怯んでしまった。自分の存在のちっぽけさを噛み締めるように。あ、今なんか私詩人ぽくない?

「でまあ浮力とは反対の力ってのが、そうだな……三橋!」

「う、え……あ」

急に先生に当てられた三橋君のどもりようが可笑しくて、また笑いが起こった。

「お前投手だろ? フォークボールの説明出来るか」

「えっ、と! フォ、フォークは人差し指……と中指の間にボール挟んで、叶君の得意な、やつで」

叶君て誰だ。三橋君は指をちょこちょこ動かしながら説明してくれる。一生懸命さは伝わってくるんだけど、肝心のフォークボールがどんな球なのかはイマイチ伝わってこなかった。先生もちょっと困ったような顔になってきた、その時だった。

「フォークってのはさ、球が回転しないから打者の目の前で落ちるように見える球なんだよな!三橋!」

「う、ん!」 

「でも実際はさ、目の前で落ちるんじゃないんだぜ。みんなはストレートとかフォークとか球種を判断するのが早すぎるから、目の前で落ちたように感じんの。イチローなんかは……」

三橋君に助け船を出した田島君が、止まらない勢いで語り出す。野球のことをあんまり知らない私にもちょっと理解出来る程度の言葉なんだけれど、そのひとつひとつが熱を帯びている、気がする。田島君が本当に野球が好きなことが、何のオブラートに包まれることもなく真正面からぶつかってくる。


あの後、先生が物理的に見たフォークボールの解説をしてくれて、まあなんにしても田島君はすごいと締めくくり、今の休み時間に至る。

「田島君さっきはすごかったねー」

「ん、みょうじ!」

「よくあんなに色々知ってるね」

「好きだからなっ」

その台詞は私に向けられたものではない。野球が、だ。分かっているのに上がった口角が元に戻らない。私いま恥ずかしい顔してるんだろうなあ。

「田島君はさ、そのフォークってやつ打てるの?」

「おー、楽勝!」

そこで楽勝とか言ってしまえる田島君の笑顔は、それこそその言葉を信用するしかないような、自信満々の笑顔だった。なんだろう。かっこいいかも、しれない。
世界の色が、君であればいい


*****
うちのクラスで起こった実話混じりのお話。
やっぱり球児はかっこいい。

100319
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -