所詮は馴れ合いだったのかもしれないね。似てる者同士が集まって自己満足に溺れて、結局残ったものは虚しさだけでしょう? あなたは小さな頃の記憶の断片を取り戻していってる。もうそろそろ、そろそろ。

「ギル、もう一緒に居ることは出来ないね」

情けない顔。下がった眉に、ぽかんと開いた口。泣きそうな、顔。ヘタレ。
いくら悪口を重ねようとも嫌いになれないことが辛くて堪らない。

「な……に、急に」

「私、明日になったらギルのこと忘れてるのよ」

「忘れられないようにずっとずっと、傍に居るから。今までみたいに」

「それはもう無理なの」

「一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、電話も、する」

「違うの」

無理なの。ギルだって、薄々分かってるからそんな顔で泣くんでしょう。私も同じよ。

「オレのことが嫌いになったのか……?」

「そういうことじゃ、ないんだよ」

なんでそう解りきった下らないことを聞くのかなあ。そんな訳ないのに。答えはもっと違うところにあるのに。

「じゃあどういうことなんだよ」

怒ったような声色の裏。それに私が気付かないとでも? 

「もう一緒には居られない、ただそれだけのことよ」

「それが分からないんだよ。離れる意義はどこにあるんだ」

「私たちが出会った時から……ギルだって感じてたことがあるでしょう? それが何よりの意義じゃないの」

ギルは押し黙ったまま、また染みをつくる。ほうらやっぱり、ギルだって私と同じこと感じてたんじゃない。虚しさとか惨めさとかかなしさとか、そういうものを。
幸せな時が無かった訳じゃない。楽しい時だって、嬉しい時だってあった。けど、そのほとぼりが冷めて思うのはそんな負の感情ばかり。

「オレは……っ」

続く言葉をギルも私も見つけられない。
最後まで言わなかったけどね、一番辛いのは私の記憶からだけギルが抜け落ちるということ。ギルの記憶には私が段々刻み付けられてくのに私だけが忘れてしまうなんて仲間外れみたいなこと嫌なのよ。それは日を増すごとに膨らんでいく不安。私はとんでもない我が侭な弱虫ね。
ねえギルの記憶にはしっかり私という人間が刻みついてる? 私の記憶にはね、白しか刻みつけられないの。ギルと見た景色だって、ギルの目鼻の形だって、好きだって気持ちでさえ無に還っちゃうの。昔のギルの記憶が真っ白なようにね。それがかなしい、なんて気持ちも多分無いんだよ。
でも、だから、笑え。今精一杯のことを伝えるために。愛してるよ、もう言えないから。

「ギルはせっかくこれからの嬉しいことも楽しいことも記憶に刻み付けていけるんだから、ね?」

最後に吸ったあの酸素の味は


*****
小さい頃の記憶のないギルと、病気で記憶が欠けていく女の子

ていうかパンドラって需要あるのか…?

ルカの言わずと知れた名曲、Just Be Friendsを聞いてて書きたくなったもの。愛し合ってるのに別れなきゃいけない、ってのは私にはまだ分からないんだけど……。

100211
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