重い女は嫌いだ。毎日メール、毎日電話、はっきり言ってめんどくさい。たまに電話してちょっと恥ずかしい言葉を囁いてみたり、そういうのが好きだ。

「確かに好きなんだけどさあ」

ん、とこっちを見たその手にはポッキー。小さく動く唇はいじらしくて堪らない。じゃあなくて!
今日は俺の誕生日。まぁ自分から言うのもなんだから、なまえが誕生日という単語を口にするのを待って一週間。なまえが口にしているのはポッキー、ただそれだけだ。もう当日なんだけど。

「なあに準太、ポッキー欲しいの?」

「いや違うけど」

何で伝わらないんだろう。本当に覚えてないのか。それはちょっと、いやかなり悲しいぞ。大体女って記念日とかそういうの大好きなんじゃないのか? スケジュール表に書いて何日も前からカウントダウンしてさ、やたらと盛大にオイワイする。そんな女は俺の周りに溢れてる。そんな女が嫌いだ。なまえが好きだ。でも今日くらいはさ、そんな馬鹿で俺好みじゃない女子みたいに祝ってほしい。

「そういえばさー準太、今日た……」

うんそうそうそれそれ。待ちに待った言葉。

「体育嫌だね」

違った。一気に落下する気持ちの高ぶり。

「今日の準太は感情の起伏が激しいね!」

白々しく甘い声。無駄に笑顔。

「……なあお前それわざと?」

そして、何のことと言わんばかりに首を傾げるポーズ。知ってる、こいつは普段こんな可愛い仕草をしない。

「わざとか」

「バレた? 朝から、っていうか一週間前くらいからの準太の期待っぷりが面白くてつい、ね」

けたけた笑うなまえを視界の端っこに、恥ずかしさで顔が上がらない。いつだってそう、俺が優位に立つことなんてキスの時くらいだ。まあその時でさえ、余裕綽々な笑みを浮かべているなまえには到底敵わないって、認めなくないけど分かってる。




そんな女々しいことを悶々と考えている内に放課後。早く部活行かなきゃ、また利央にからかわれる。なのにわざとらしくゆっくりと動く俺。理由なんて、一つに決まってる。

「じゃあねー準太ー」

「っおい!帰んのかよ」

「だって今日特に用事ないし」

待てよ。まだプレゼントだって貰ってないし、部活のあとのデートの約束もない、おめでとうって聞き慣れた言葉の一つすら言ってもらってない。ここで待てと言わなければ本当に帰ってしまう。なまえはそんな女だ。

「お、い」

「何よ」

「俺、プレゼントとか貰ってないんだけど……」

「だってあげてないもん」

「おめでとうだって、言ってもらってない、し」

「ああ、おめでとう」

きっと今の自分はすごく情けない顔をしている。そんな自分を浮かべ、更に増す虚しさ。
スケジュール表に書いて何日も前からカウントダウンしてさ、やたらと盛大にオイワイする。そんな女は俺の周りに溢れてる。そんな女が嫌いだ。なまえが好きだ。きらいすき。すききらい。でも今日くらいはさ、そんな馬鹿で俺好みじゃない女子みたいに祝ってほしい。スキキライ。キライスキ。ああもう!

「……今日、デートとか」

「準太遅くまで部活じゃん」

「いや、ま。そうなんだけど」

そう言えばなまえは普段からあまり誘う、ってことをしない。いつも俺から。別にそれを愛されていないからだと感じることはないけれど、どこか違和感を感じてしまう。

「もー準太、どっか行きたいの?」

「い、や……」

「そう。それじゃあ私帰るわね」

「ちょっと待てよ」

「もうなんなの」

「……どっか行きたい――二人で」

やっぱりこういう言葉は性に合わない。恥ずかしさは内側から、ぽかぽかと体を温めて。

「うん。じゃあ待ってる」

鞄をどさりと机に置くなまえ。手持ちの本まで取り出して、どうやら本当に待ってくれるようだ。あれ、待ってくれるんだ?
思えば、いつもそうかもしれない。誘えば断られることはない。そして、いつもなまえにうまいように誘導されて、誘ってる気がする。違和感の正体は、これか。

「早く部活行かないと遅れちゃうよ?」


策略家なシンデレラ
(落としたものはガラスの靴じゃなくて君を釣るためのエサ)(だって準太可愛いんだもの)



*****
久々にお話書いた…
出来はともかく楽しかったです!
ていうか誕生日なのに準太不憫すぎるね
とにかく、おめでとう!


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