先に待ち合わせ場所にエンヴィーが居たことなんてない。したがって、遅れてごめんね、いいや今来たところだよハニー、なんて会話は交わされたことがない。
おっと、人混みに紛れて私の好きなエンヴィーのお出掛け用の白いコート。王子さまの登場だ。

「遅れてごめんね」

「いいわよ、いつもの事だもの」

「怒ってる」

「まさか!手を繋いでくれたら許したげる」

「やっぱり怒ってんじゃん」

そう言いながら嬉しそうにするりと指を絡ませてくる。そんな君は私より背が低い。ヒールのせいとかじゃなく、15センチくらいは違う。なんたってエンヴィーは「少年」だものね。本当は私よりずっとずっと年上なのに、変な感じだ。

「……なまえに見下ろされるの何かやだ」

「何よ今更」

「今日のヒール、いっつものより2センチ高い」

「エンヴィー怖い。変態的な意味で」

「ひっどいなあ。言っとくけどなまえをねじ伏せるには十分すぎる力も持ってるし、なまえを看取るまで生きとける程の十分すぎる時間も持ってるんだからね」

知ってるよ、そんなこと。その力が私を守る為に使われることだって、その時間が私を知る為に費やされることだって、知ってるの。人間が大好きなこともね。

「あーあ。この姿気に入ってるんだけどなあ」

「うん。可愛いよ」

「でもやっぱりなまえと並んで歩くときは背が高い方が良い」

ぱちぱちと目の前を駆ける光。思わず抱きついて、それを制す。

「ちょ、ちょっと待った!こんな人目の多いとこで変身しちゃダメでしょ」

むう、とした顔。拗ねているのがあからさまに分かる。それから私の手を取り、少し速いくらいの速度で歩き出す。

「まあいいや。とっておきの、もらったし」

今度はにやり。抱きついたことを言っているんだろうな。……ちょっと恥ずかしくなってきたじゃないの。手を当てた頬が熱い。こんな熱、エンヴィーに伝わってませんように。信号で止まった隙にショーウィンドウをちらりと見る。大丈夫、顔は赤くなってない。

「僕となまえって傍からどう見えてんだろうね」

さっきまで前を向いてた筈のエンヴィーがいつの間にかショーウィンドウを同じように眺めていた。 

「やっぱりなまえの方が年上だと思われてるよね。年の差カップル」

「そりゃあ、ね」

「何か悔しいなあ。僕の方がずっと大人なのに」

それは何か違うと思う。まあ生きてきた時間は到底エンヴィーには敵わないけど。
「人造人間」のエンヴィーは確かに大人だって言えるのかもしれない。でも、ね。 

「『エンヴィー』はまだまだ子供だよ。私の方がずーっと大人」

「なにそれ。意味わかんない」

ほら、信号が変わった。




高級葉巻と100円ライター

      (そんな恋、)




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鋼の世界の通貨は円じゃねーよってツッコミはご遠慮願います

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