もう慣れたと思っていたけど、やっぱりこの空気な未だに苦手だ。転校生っていう響きをみんな珍しがるけど、遠くからちらちら視線を向けるだけ。たまに聞こえるひそひそ話も切なくなる。こんな状況何回目だろう。デジャヴ、なんてものじゃない。まあ暫く経てばまた、人並みには友達が出来てくるんだろうけど。それまでの間が結構辛かったりするんだよなあ。 「ハロー!」 思いっきりカタカナの英語で話し掛けられ、肩がびくりと跳ね上がる。目に映ったのは、まんまるな目の男の子。いかにも無邪気そう。 「マイネームイズ、タジマ!ナイストゥミートゥー」 だから、何で英語? しかもカタカナ英語。私が外国人だったらきっと聞き取れなかっただろう。 「あ、の、たじま、君?何で英語?」 「うお、お前日本語喋れんの!?」 「うん。だって日本人だもん。当たり前じゃない」 「え、アメリカとかに居たんじゃねーの?」 帰国子女!脳内の隅っこから絞り出したと思われる単語を叫ぶたじま君。いやいや、私日本から出たことないし。……もしかして転校生と帰国子女がイコールで結ばれてたりするのかな。 「私は転校生だけど帰国子女じゃないよ」 「まじで!俺、転校生ってみんな帰国子女だと思ってた」 もしかしてが的中した。たじま君はまんまるい目を更に大きくして、びっくりしている。 「んじゃあ日本語で自己紹介するなー。田島悠一郎。野球部で、四番!」 「四番!すごいね」 「へへっ。みょうじに褒められると照れるな!」 「――え、何で私の名前……」 「さっきせんせーが黒板に書いてたじゃん!お前見かけによらずバカだな!」 田島君にバカとか、言われたくない……けど、それより何より、私の名前を覚えてくれてた。いつもは黒板に書いたってみんな一回じゃ覚えてくれないのに。話し掛けてくれたことだって、そう。田島君は私が見てきた「いつものひと」じゃない。じんわり、染み渡っていくのは、きっと嬉しさ。 「んでさあ、みょうじに質問なんだけどさ。あ、でも帰国子女じゃねーなら分かんないか……」 「何?取り敢えず言ってみてよ」 「この英文。今日の英語で当たってるんだけどさあ。どう訳すの?」 ああだから急に話し掛けられたのか。指された英文は「The girl who likes baseball is Mary.」という、関係代名詞が使われたシンプルなもの。もちろん、分かる。ていうか田島君、これが分からないのは相当やばいと思うんだ。 「野球が好きな少女はメアリーです、だと思う」 「え、野球が好きな少女はマリーです、じゃないの?」 え、そこ? 確かにMaryってみんなが呼んでるからメアリーって呼んでただけで、マリーとも読めるけど。……田島君はよく分からない。 「そっかあ、マリーは野球が好きなのかー」 結局私の出した答えは無視されてマリーになってるし。まあどっちでもいいけど。 「みょうじは?野球好き?」 「まあ好きだよ」 「マリーとどっちの方が好き?」 「は?」 「だからーっ、マリーとみょうじのどっちの方が野球好きかって聞いてんの!」 ああそういう意味か。マリーと野球のどちらの方が好きか聞かれたのかと思った。田島君、言葉が足りないよ。それに架空の人物と自分となんて比べられるわけがない。マリーがどれだけ野球を好きとか知らないし! それでも、真剣な目で答えを待っている田島君を見て、何故だか真剣に答えなきゃならない気がしてきた。 「マリー、かな」 「嘘!……じゃあみょうじ、今週末の練習試合見に来いよ」 「え、な、なんでっ」 「虜になってもしらないからなー」 私の質問はスルー。 「虜って……野球に?」 「マリーより野球を好きになってもらうため!」 話、噛み合ってない……? 「やっべー俺超頑張る!」 「いや、田島君ちょっと話噛み合ってな、」 「野球じゃなくて俺に虜になんの!」 Maryさん、マリーさん、メアリーさん (誰か通訳して……!) ***** 駄作っぷりを余すことなく発揮\(^O^)/ 091224 |