「おい、何やってくれてんだ」

昼休みの窓際はぽかぽかで、少し良い気分になってきたのに、なんてタイミング! じろりと上を仰ぐと、私と同じ目で阿部がこちらを見下ろしていた。そして差し出された紙には覚えがある。これ書いたのお前だよな、その阿部の言葉で、ぽやっとしていた意識がようやくはっきりした。

「良い思いできたでしょ?」

「は!馬鹿言ってんじゃねえよ。これのせいで、誰かとすれ違う度に憐れんだ目で見られるか痛々しくおめでとう言われるかだったんだぞ」

阿部が突きだしてきたのは、私の筆跡で「僕は今日誕生日です」と書かれた紙だった。そりゃあ見覚えがある筈だ。だって私がこの紙を阿部の背中に貼っといてあげたんだもの。

「私の配慮のおかげで友達の少ない阿部だけど色んな人に祝ってもらえたじゃない」

「ほっとけ。つーか、これ配慮じゃなくてイジメだろ」

「もう我が侭だなあ。一体何が不満なの?ん?」

「背中にこんな紙貼るって行為がだよ!まじで教室から出るんじゃなかった……」

阿部が顔を覆うのと同時に、昼休みの終わりを告げるチャイム。ぞろぞろと席に向かう人の波に乗っかって、阿部も自分の席へと動き出す。その紙もう付けないのと叫べば、忌々しそうな顔で舌打ちを返された。真っ白な紙がなくなった背中がやけに寂しく見えてしまう。それに何か……しがみつきたくなるような背中だなあ。認めなくないけど。

やっと窮屈な時間が終わった。その解放感と同時に、喉はいきなり水分を求め始める。今飲みたいのは女の子らしく苺オレ? 日本人と言えばの緑茶? いや、やっぱりスカッとした炭酸が飲みたいな。あの泡の弾ける感じを想像すると、帰り道までなんて到底待てそうになく、財布を引っ掴んで学校の自販機へ向かうことにした。この時の阿部がくつくつ笑う声に気付けば良かったんだ。何も知らない私は、喉を掠めるシュワシュワにただただ満足していた。 

さすがに練習中に怒鳴り込んでいく勇気はなかったから終わるのを待っていると、自然に辺りはもう真っ暗。少し怖いなあ、なんて考えていると、誰かが私の名前を呼ぶのが聞こえた。

「水谷じゃん」

「みょうじ、どうしたの?……っあーそっか」

苦笑いとニヤニヤのちょうど中間みたいな顔をして、ご愁傷様と言う水谷。お前アレ知ってたんだったら何とかしろよ。悪態をつきながら私も苦笑いをしていると、頭の上に大きな手がぼすんと乗る。

「おー気付いたか」

「阿部、あんたね…!」

「こんなとこで話してて良いのか?野球部の奴らに聞かれるぞ」

そう言われ、ぐいぐい連れてこられた先は、微かに電灯の明かりが届くくらいの人気のない場所。

「阿部、仕返しにしちゃちょっと度が過ぎてない?」

昼休みに阿部がしたように、紙を突き出す。汚い字で書かれているのは「私は阿部が好きです」という言葉。これが背中に貼ってあったのだから、今思い出しても体の熱が上がってくる。

「いつ気付いた?」

「自販機行って、教室戻って、帰ろうとグランド歩いてた時に先生に言われてよ!」

「んじゃー結構色んな奴に見られてるって訳か」

くつくつ笑う阿部。その笑い方が、苛つくのよ。

「大体なんなの。私が阿部を好きとか、ありえないじゃん」

「でも、好きなんだろ?」

「好きじゃない」

「嘘吐くなって」

「好きじゃないってば!」

いい加減にして、そう言おうと思ってた。なのにあれ? 何で私抱き締められてんの? 

「あ、べっ!」

「責任取るからさ」

「何の」

「あんな紙貼った責任。だから俺と付き合えよ」

「冗談言わないで」

「だってお前は俺が好きだろ。俺もお前が好きだろ。何も問題ねーじゃん」

そう言われ、少し気持ちがぐらついてしまったのは、辺りの暗さが不安だからだろう。素直になってしまえという思いが体内で反響している。
……さっきの言葉、信用してもいいですか。素直になっても、いいですか。

「俺、まだお前におめでとうって言ってもらってねえんだけど」

にやり笑う君は、もう私の気持ちなんか何十年も前から知っているかのような面持ち。どこまで私の上手をいくんだろうか、この男は。


ロマンスの揚げ足を取る



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一日遅れちゃったけど、気持ちは11日です!←
阿部誕生日おめでとー
あのSっ気たっぷりな君が大好きだよ
お粗末でした

タイトル、3/19


091212
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