僅か数センチの距離に好きな人が居るって、案外良いもんだ。まだ幼さの残る悠一郎の顔、寝顔。思わず触れたくなる衝動を抑え、ただただ見つめる。どうしてか飽きない。 
言ってしまえば夢心地だったのに、急な着信音で現実に引き戻される。最悪だ。流行りの歌手の安っぽい歌声なんかに、この繊細で大切な空間をこれ以上壊されたくない。携帯に手を伸ばすと、空いた布団の隙間から冷たい空気がひゅう、と流れ込んできた。あと少し手が届かなくて、ちょこちょこ移動する。
すると、隣から伸びた程よく筋肉のついた手が携帯を数回操作し、パタンとそれを閉じた。やっと鳴り止んだ煩さとともに、静かな部屋が浮き彫りになる。

「ご、ごめんね悠一郎。起こしちゃったね」

「あのさぁ」

高校時代から稀に目にする、真剣な、何かを射抜くような瞳。それが今、真っ直ぐに私に向けられている。

「俺と居る時は携帯の電源切っといて」

「分かった。……ごめん」

自分でも分かるほどにしゅんとしてしまう。確かに気持ちよく寝てるとこを着信音なんかで邪魔されるなんて嫌だよね。垂れた頭越しに悠一郎のため息が聞こえる。

「だーかーら、俺となまえとの時間を誰かに邪魔されたくないのっ。分かるか?」

心地好い温度の手に挟まれて上げられた顔の先には、優しい悠一郎の瞳があった。不安定だったものが、振動数を落とし止まっていく。なんて単純な私。

「分か、る」

「ん!よろしい」

満面の笑み。私はこの顔に何度安心を貰ったんだろう。ひょこひょこと体を寄せると、じゃあおやすみ、と言って、また悠一郎の手がお腹辺りにまわる。隣に居られる幸せをもう少し噛みしめてから眠ろうかな。  


空間温度


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初田島夢
大学生設定です
にしても最近文が悲惨すぎる…
ネタは溜まってるのに


091121
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テーマ「人外ファンタジー」
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