あの子が入院するのが何回目かなんて、もう覚えてはいない。回数以上の強烈な印象があるからかもしれない。初めて会った時、同じ金色の髪の私を見て、お揃い!と言った笑顔(怪我してたから苦しそうだったんだけれど)は忘れられない。 あの子は病気で此処へ来ることはなくて、理由はいつも怪我だった。見てるこっちが泣きたくなるほどの大怪我だって、ある。そして、青い服着た軍人さんとか、黒い服着た憲兵さんとかに付き添われていつもやって来る。何となく想像はついた。 偶然にも私とあの子は接する機会が多かった。生意気で、せっかちで、ワガママで、負けず嫌いで、何だか優しくて。そんなあの子に抱いた気持ち。また会えないかな、なんて不謹慎な願い。 また、あの子が入院してきた。今回は簡単な検査だけだから、1日の入院だけだ。何でも肋骨と腕の骨を骨折したらしい。が、病院に検査に来ただけ。何故治っているのかと問うと、色々あったんだ、と濁された。 「なまえさん、オレさ」 あの子は私のこと、馴れ馴れしく名前で呼ぶ。まあ嬉しいんだけど。 「北に行こうと思うんだ」 「……北?」 「探し物があってさ」 「それは北にあるものなの?」 「んーどうだろ」 「北、か。遠いね」 なまえさんにも暫く会えないな、なんて無邪気にあの子が言うもんだから、悲しさが体内で震える。それは絶対に探しに行かなくちゃダメなものなの?どのくらい北に居るの?中央にはもう帰ってこないの?聞きたいことは、山程あった。もうこの1日しかないかもしれないと思った。けれど、口から出てきたのは、感情の籠ってない淋しいという言葉。これ以上此処に居れば、確実に泣いてしまう。 「じゃあ私、仕事があるから行くね。北では風邪に気を付けるのよ」 くるんと方向転換。その瞬間、冷たい右手に私の手首が捕まった。驚いて振り返ると、今まで見たことないような、真剣な顔をしたあの子。 「淋しいって思うなら、感情込めて言ってくださいよ」 「……ごめん」 「そのくらい分かるんです、オレにも。馬鹿にしないでください」 あの子がまた無邪気に笑うから、私もつられて笑う。目の隙間から一粒の涙が落ちた。慌てて目を擦ろうと、もう止まってはくれない。ああ私、色々ダメだなあ。 「絶対にまた此処に戻って来るんで」 「え?」 「探し物見つけて、オレに欠けたものも取り戻して、戻ってくるんで」 待っててください。 そう言ったあの子を、階段の窓から漏れた金色の光に思い出しながら、私は今日もまた、1日を過ごすのだ。 、だから結局愛してしまってたと思うんだ ***** 昨日、書いてたら間違って半分が消えちゃった作品 クリアボタン長押ししてしまったあの時の絶望は半端ない 初めての年上ヒロイン作品です 年上ヒロインって前はちょっと受け付けなかったんだけれど、今は大好きです タイトル、花洩 091115 |