玄関ですごい音がしたから恐る恐る寝転んでいたベッドから身を起こすと、次の瞬間にエンヴィーが私に絡み付いてきて、再び私の体はベッドに沈んだ。 呆気にとられ半開きの私の唇の間に遠慮なしに舌をつっこんでくる彼。息をつく暇も与えてくれないそれは私に生理的な涙をもたらした。 それに気付いた彼はキスを止め、その苦しそうな表情を隠すように私を強くつよく抱きしめた。 骨が軋む一歩手前くらいまで。 「どうしたの」 「ラストが、死んだ」 「お姉さん、が?」 「死んだんだ」 涙を流すでもなく、震えるでもなく、淡々と事実を話すエンヴィーの心臓はいつもと同じテンポでとくとくと、温かい。 私を抱きしめているその腕の力具合だけが、いつもとは違う彼の心情を伺わせる。 「悲しいの?」 「涙は出ないよ」 「寂しいの?」 「震えないよ」 「怖い、の?」 「……よくわかんない」 エンヴィーが私たちと同じでないことはもう知っている。よく分からないけれど、賢者の石とかいうやつを体内に持っていて、彼は、彼らは、死なない。 死なない、って言っていた。死なない筈だった。 「怖がらなくていいよ。何事にも終わりは来る」 「そんなの、人間だけだ」 「違うよ、それは傲慢だよ」 また彼が私を抱きしめる力が強くなった。痛いけれど、今の彼を前にそれを口にはできない。 「お姉さんの死から目を背けちゃだめ。終わりをなかったことにしちゃ、だめだよ」 「知らないそんなの」 「お姉さんの存在をちゃんとエンヴィーの胸の中に残しておいてあげなくちゃ。終わりをなかったことにしてしまったら、お姉さんの居場所はなくなっちゃうよ」 背中に回されていた腕がほどけて、彼の苦しそうな表情と向かい合う。 その頬を爪でひっかいてかすり傷をつけたら、パチパチと光がほとばしって、あっという間にその小さい傷はなくなった。 「……ねえ、この感情の名前を教えてよ」 「私はエンヴィーじゃないもの。それはエンヴィーにしか分からないことだよ」 「わかんないんだ、もう」 「……ひとつだけ私が言えるのはね」 「なに?」 「心にぽっかり穴が空いちゃったときは、ひとの温もりを感じればいいってこと」 触れたって壊れやしないって、ねえきみは知っていた? ***** エンヴィーは何やかんやでラストが大好きだったと思うのです タイトル、あもれ 110803 |