心地好い振動数で揺れる座席。このまま目的のバス停になんか着かなきゃ良いのに。俺にこんな甘ったるい思考をさせてるのは多分、というか絶対、俺の肩に乗っかっているなまえだ。

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練習が終わり、皆で他愛もない話をしていると、モモカンに呼ばれた。何か悪いことしたっけ、などと考えを巡らせる。 

「なまえちゃんがね、ちょっと体調悪いみたいなの。泉君家近いんでしょ?送ってあげなさい」

「いいっすけど……チャリはきついです」

「バス、ないの?」

「金がないんすよ」

「貸してあげるから」

「そのお金、返さなきゃ駄目ですよね?」

女の子の為のバス代をケチるんじゃない、と小突かれた。いや、高校生にとって金銭面は重要な論争点なんだけど。でも、ベンチにぐったり横たわるマネジは辛そうで。放っておけないという思いはマネジが幼馴染みだということだけではない。俺も青春真っ盛りな高校生な訳で、二人きりなんて久々なシチュエーションになるであろうという期待には逆らえない。

結局俺が折れて、バス停へと向かう。マネジの鞄は俺のとは違う素材でできてんじゃないかって位に重い。きっと教科書やら参考書やらが一杯詰まってるんだろう。歩調を合わせながらゆっくり進む。こんな時、彼氏というポジションだったなら、手を引いたり出来たんだろうな。

バスに乗り込むと、殆どの学生とは違う帰宅時間だったから、バスは空いていた。タイヤの上を避けた適当な場所の窓側に座らせ、自分は通路を挟んだ反対側に座ろうとする。素直に隣に座れない辺り、俺も不器用だと思う。

「隣に乗らないの?」

マネジは少し元気のない、掠れ声で呟く。少し考え、やはり自分に素直になってみることにした。素直なのは悪いことじゃないはずだ。こーちゃん、と掠れ声が俺を呼ぶ。昔っからの癖なので、マネジのその呼び方は相変わらず抜けない。

「こーちゃん、ごめんね」

「何が?」

「バス代。私、ちゃんと二人分払うから」

「馬鹿。それ、男としてどうなんだよ」

「でも、こーちゃん……」

この苛つきにも似た感情のぶつけ先が分からない。俺はそんなに男として見られてないのか?頼りないのか?今まで何とも思わなかった「こーちゃん」って呼び方にさえ苛立ちを覚える。それは、男として意識してほしいっていう我儘なんだけれど。

「こーちゃんってば」「こーちゃんって、呼ぶな」

「え……」

思わず吐き出した、俺の身勝手すぎる感情。マネジは傷ついたような、驚いたような、どちらともつかない顔をしている。

「こーちゃん、て、呼ぶな」

そう言うとマネジはちょっと窓の外を見て、また、あの透き通った目に俺を映す。そして溜め息混じりの声色で、じゃあ言うけどね、と前置きして、 

「マネジって呼ぶな」

「……は?」

「中学までははなまえ、って呼んでくれてたのに。何で高校入ってマネジとでしか呼んでくれないの?そんなに私の名前、呼びたくないの?」

溜め息混じりだった声が悲痛を含んだ声になったのが分かった。そうじゃないんだ、なまえって呼ばないのは……。頭の中でぐるぐると回るのは、言い訳という卑怯な思考。ああそうか、俺が苛ついていたのは俺の気持ちを理解しないマネジじゃない。俺の気持ちを理解しない俺に対してだ。ストンと腑に落ちた答えを噛みしめると同時に、なまえの唇にそっと触れた。汗の臭いがつん、と鼻孔をくすぐる。雰囲気もなんもねぇけど。

「こういうことだよ、なまえ」


Please call my name
(つまりは互いに意識し過ぎてただけのこと)


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やっと書けた泉夢の出来がこれとは…
泣きたくなるね


091114
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