「千歳寒い」 「、?」 「不思議な顔をして腕広げんな。千歳に温めてもらうつもりないからね」 「それは残念たい」 「温かいもの飲みたい」 「そぎゃんこつなら……」 鞄をごそごそ探り始めた千歳。気前よくおごってくれるだなんて珍しい。 「これでよか?」 取り出されたのは財布ではなく、銀色した水筒。ぽかんとする私を他所に千歳はコップを開けてそれにこぽこぽとお茶を注ぎ始める。 湯気が空気中にすうっと馴染んでいく。 「何で笑うと?」 「いや、千歳らしいなあと思って」 訝しげな表情をする千歳にありがとうを言ってお茶を受け取る。優しい味。 「千歳の家のお茶好き」 「うまか?」 「うん。あ、じゃあお礼にこれあげる」 そう言ってミカンを放るとパアッと目をキラキラさせるあたり、千歳の可愛くて仕方ないところ。 千歳の大きい手に包まれたミカンは私が持っていた時よりいくらか小さくなった気がした。 今度は酸っぱい匂いが空気中に馴染んでいく。 「ひとかけちょーだい」 「ん」 「……結構酸っぱかったね」 「俺は酸っぱいミカンも好きたい」 「ふふ、千歳らしい」 「……また笑ったばい」 101230 |