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「マチさん!」

そう言いながら駆け寄っていったら、マチさんはまたあんたか、という顔をした。
立ち止まって少し鬱陶しそうな目を私に向けていてぞくぞくする。
優しいんだから、もう。私が追い付けないような速度でどこかへ去ってしまうことだって出来るのに、いつもそれをしない。あぁ好き。

「こんにちは!」

「あんたは毎度毎度私を見つけ出すのがうまいね」

「えへへ」

「褒めてるような口調に聞こえた?」

「いえ全然」

「はあ……まあいつものことだよね。あんたのそれは」

「マチさんマチさん」

「なに」

「今日、スコーンを作ってみたんですよ。自分で言うのもなんなんですけど、上手くできたので食べてもらえないかなあと思って」

「この前上手くできたんですって持ってきたクッキーはちょっと焦げ臭かったけどね」

「今日のは大丈夫、だと思います!」

先ほどの言葉でうまく私をあしらったつもりだったのだろう。マチさんは呆れた表情でスコーンの入った紙袋を受け取ってくれた。
そして一つをその綺麗な手でつまんで、口に運ぶ。お上品に食べるのではない、がつがつと私のスコーンにかぶりついている。あぁ恍惚としてしまう。綺麗すぎて。
ぶっきらぼうに、ジャムとか付けときなさいよと言い放って、指についた食べかすをペロリと舌で拭った。

「おいしかったですか?」

「前のクッキーよりはね」

「嬉しいです。次は何を作ってこようかなあ」

「……また何か作ってくる気なの」

「はい!」

「新手の嫌がらせだよ全く」

「マチさん、マチさん」

「今度はなに」

「マチさん」

「なんなの不毛な会話もいい加減にしないと痛い目見るよ。私はそんなに暇人じゃないんだ」

「マチさんは優しいですよね。私、マチさんの優しさに涙が出そうです」

「はあ?」

「私、マチさん好きです。性的な意味とかじゃなくて、なんだろう……でも、とにかく好きです」

マチさんは眉間に今までで一番深い皺を寄せている。私はそんな姿を見て、ほとんど本能的に、マチさんに抱きついてしまった。

「あんたは殺されたいの?」

「殺されたくないです。マチさんの側にいたいだけです」

「じゃあ今すぐ離れな」

「はい」

「本当にあんたは。ヒソカとは別物の掴みどころのなさを持ってるね」

「私の掴みどころなんてすごく分かりやすいところに転がってますよ」

「……アジトに帰るよ」

「はぁい」

「腕掴まないで」

「これくらい許してくださいよぅ。あーもーマチさん好きです大好きです」

「はいはい分かった分かった。だから黙って」



いっとうやさしい孵化の方法



121006
タイトル、花洩

恋愛対象として好きなわけでも、仲間として好きなわけでもないんだよ。
この特別な好きに誰か名前を付けてください。
それから、それから、あなたは私の手の届くところにいてください。

女の子って可愛い。
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