アスファルトが太陽の熱を反射させて、体感温度を高くする。高校の周りにはまだ舗装されていない道路が多いから暫くこの熱さを忘れていた。今彼女と訪れているこの町は、秋田の中ではまあ割と開発が進んでいる町らしいが、東京と比べれば……なんて、お門違いか。
そのアスファルトの上、軽快な音を奏でながら隣で歩く彼女をちらりと見る。その視線に気付いた彼女もこちらを見て微笑む。なんだか、違和感。

「な〜んか変」

「なに急に」

「ん〜?」

違和感の正体が分からなくてモヤモヤする。不思議そうに俺の顔を見上げてくる彼女がいつもより迫ってきている気がした。
あぁ、違和感の正体はこれか。

「背ぇ伸びたー?」

「私? あぁ、今日高いヒール履いてるから」

そう言って足元を指さす。アスファルトの上、軽快な音の正体、いつもより自分に近い彼女のトリックが分かった。オレンジ色のサンダルのヒールは思わず眉をひそめてしまうほど高くて、どうしてそんな靴で歩けるのかが本当に分からない。
器用だね、って呟くと彼女はなにが?ってとぼけているのか本気で分かっていないのかがイマイチびみょーな表情をした。

「なんでわざわざそんな歩きにくそうな靴履くの? 訳わかんねーし」

「理由を言ったらきっと敦は呆れるよ」

「そんなしょーもない理由なの」

「私にとってはしょうもなくはないけどね」

ますますモヤモヤする。敦に言っても無駄だよ、って言われてるみたいだ。少しいらいらしたから歩くスピードを速めてやる。
ずんずんずんずん進んで行って、20歩くらい進んだところで彼女が全く俺の歩くスピードに付いてこれていないことに気付く。ひょこひょこと小さな歩幅で、ほんと、か弱そうっていうか脆そうっていうか、捻り潰せそう。
あーもう。

「ちゃんと隣歩いててよ」

歩くスピードを落として、ついでに彼女の手を掴む。ありがとう、ってぽそりとその唇から零れ落ちた言葉が可愛かったから、まあ、許してあげる。

「敦」

「なにー」

「今日はいつもより敦と近いから、嬉しくて」

「もしかしてヒール履く理由ってそれぇ?」

「うん、呆れていいよ」

「バッカみたい」

「でしょ」

彼女は普段俺をそんなに遠くに感じているのか。そんなことを思えばちょっとだけ苦しくて。距離なんて全く感じていない俺が、まるで一方的に好きみたいじゃん。そんなの気に食わない。

「距離とか、そんなん感じてんの」

「別にそういう意味じゃないよ」

「むかつく」

そう言葉を吐いて、彼女の目線の高さまで腰を折る。ほっぺを両手でぎゅっと挟んで、目と目を合わせる。

「あ、敦、近い」

どちらかが少しでも動けば唇が触れ合ってしまいそうな距離に、俺は内心してやったりとか思っていた訳だけど。

「ほら、距離なんてさ、ないに等しいでしょ」


静かに、つづきは僕が


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ツイッターで知った、OmmWriterというテキストエディタを新たにDLしたのでそれを使って書いた作品です。このテキストエディタ本当に美しくて、恍惚しながらこのお話を書いてました。

タイトル、獣

120914
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