九番隊の隊首室でお茶をすする。さすが拳西の淹れたお茶だ。美味しいし、落ち着く。

「おい。いつまでここに居るつもりだ」

「んー、拳西が私に好きって言ってくれるまで?」

「は……なんだそれ」

「好きって言うだけで邪魔者が居なくなるんなら安いもんじゃない?」

「冗談でそんなこと言えるかよ」

拳西は真面目だねー、とからかうと、ぎろりとこちらを睨まれてしまった。

「ほんと、拳西……は」

急に悲しくなってきて、立てた膝に顔をうずめる。拳西が困っているのは空気で分かった。
さっきまでのおちゃらけた雰囲気が失せたこの空間は、さぞかし居心地の悪いことだろう。
それでも無理矢理追い払ったり、からかってこない辺り、何だかんだ言って拳西は優しい。

「……真子と何かあったのか」

「ううん、何もないよ。喧嘩だってしてないし、倦怠期って訳でもないし」

「そうか」

「ただ」

私が勝手に不安になってるだけ。そう呟くと同時に涙一粒が膝頭に落ちた。
拳西のような恋愛に不器用な人が恋人なら、こんな不安を抱えることはないのかもしれない。けど、真子は。
器用だし、女の子の扱い上手いし、口も達者だし、何だかんだで女の子には優しいし。どうしても色々不安になっちゃうの。
身勝手な感情の捌け口にしてしまったというのに、拳西はやっぱり真っ直ぐに優しくて。すがりすぎてはいけない、迷惑をかけてはいけないと思いながら、その隊首羽織をきゅっと握る。
拳西は私の頭に手を置こうとして――でもその手が私の頭に触れることはなかった。

「気遣わせちゃってごめん」

「気にすんな。それに、お前が置いてほしい手は俺のじゃねェだろ?」

「うん。ありがとう」

やっと落ち着いた私が微笑むと、大きな振動が部屋を駆けた。
襖の方を見やれば、その綺麗な金髪を揺らす真子が焦ったような表情で立っている。

「拳西、なまえが世話になったな」

行くぞ、と強引に手を引かれる。残ってたお茶、飲んでしまいたかったのになあ。

「真子?」

「なんや」

「怒ってる」

「まあな」

「何で怒ってるの?」

「お前、そないなことも分からんのかいな」

「仕事サボったこと?」

「ちゃう」

「デートの約束守れなかったこと?」

「あれは仕事やってんからしゃーないやろ」

「じゃあ、何」

それまで視界に映っていた広い背中が、ぐるんと一転し、真剣な眼差しを向けられる。真子のこの目は苦手。何もかも見透かされてしまいそう。

「ええか、男はお前が思とる以上にやらしい感情の塊やねんで」

「う、ん?」

「せやから俺以外の男と二人きりになるとかやめろ」

「拳西とでも?」

「拳西とも、羅武とも、誰とでもや」

「そういうもの?」

「そういうもんや。えぇな?」

「分かった。ね、真子」

「なんや」

「嫉妬してるの?」

「……あかんか」

恋愛上手な真子にこんな一面もあるだなんて。彼女なのに知らなかった。
ちょっと、嬉しいなあ。

「真子」

「かっこ悪いとか言うなや」

「ごめんね」


キス一回で許したる


*****
拳西を登場させられて満足です。

タイトル、確かに恋だった

100825
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