「なまえ!」

「何度も言ってるでしょ、名前で呼ばないでって」

「んなもん癖なんだから仕方ねぇだろ」

「いやいや、私が女子たちに睨まれるんですけど」

「は?」

「いえいえ何でも」

「今日の夜、俺ん家来れる?」

「な、なんで」

「漬物作りすぎたからお裾分け」

「やった!孝介のお母さんの漬物美味しいんだよねー」

「……やっぱ不公平」

「なにが?」

「お前は孝介って呼ぶのに俺だけ名前は駄目とか、不公平」

「しょーがないじゃん!」

「何がだよ!」

「あーもう」

「言えよ」

「だからっ!孝介はモテるんだから、下の名前で呼ばれちゃ私が女子たちに睨まれるの!」

「……んだよ、それ」

「男子には分からないかもしれないけど、女子ってそーゆーもんなの。怖いの」

「ばっかじゃねえの」

「馬鹿って、ひど。こっちは真剣に悩んでるんですけど」

「なまえって昔っからそうだよな」

「はあ?」

「昔っから俺のことちゃんと見てくんねえの」

「ちゃんと見てるし」

「見てないじゃん」

「だってそれは……孝介がそんな格好してるから」

「はあ?」

「だっ、て!ノースリーブのアンダーって!」

「これがどうしたんだよ」

「腕の筋肉がっ」

「が?」

「不覚にもかっこいいと思っちゃったの!」

「……この格好の俺がかっこいいってこと?」

「そうだよ馬鹿」

「馬鹿言うな、馬鹿」

「何で知らない内にかっこよくなってんの……直視出来ないじゃん」

「やっぱお前、俺のことちゃんと見てねえよ」

「っだから!」

「そういう意味じゃなくて」

「訳分かんない」

「だから!……俺が昔っからなまえを好きだったの、気付いてたかってこと!」

「いやいや冗談よそうよ」

「……」

「……本気?」

「うん」

「ちょっとまじで……また女子たちに睨まれるじゃんか」

「悪い」

「ここで私がイエスって言っちゃったら、私いじめられるのかなあ」

「さあ?俺男子だから分かんねー」

「無責任な」

「まあ出来ればイエスって言ってほしいんだけど」

「私も出来ればイエスって言いたいんだけど」

「……」

「好き、だけど?」

「素直じゃねーんだよ馬鹿」

「今日の孝介、馬鹿馬鹿言い過ぎ」

「これからはちゃんと俺のことだけ見とけよ」

「……りょーかいです」


クイーンビーが、たった一人愛した人


*****
ノースリーブのアンダーを着た泉が書きたかっただけ。
クイーンビーは女王蜂のこと。

100908
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